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はじめての××。
 子供は風の子と言って元気に外で遊びまわる様を表したりするが、昔の人はよく言ったものである。
 公園で走り回ったり、学校で友達とふざけあったり。朝は洗いたての真っ白なシャツで出て行ったはずの子供が泥だらけになって帰ってくると、多少目を見張るものの苦笑した母親が「早く着替えていらっしゃい」と促してくれる。
 そんな日常の風景はどこにでもあるのではないだろうか。
 けれど、ここに多少その「日常」に当てはまらない家庭が存在していた。

「あら、あらまぁ!」

 泥だらけ、なんていう生易しいものではない。

「ただいま、ママ」

「・・・ただいま」

 申しわけなさそうに玄関で立ち止まり、引きつった笑いを浮かべながら出迎えた母親を見上げる少年と、その後ろに隠れるように立ちすくんでいるもう一人の少年。
 2人はそれぞれ色違いのシャツを着ているはずだったのだが、既に汚れていない箇所を探すほうが困難な状態では元の色も判別できない。
 すす汚れたふたつの顔は、服の色違いを除くといっそう似ていて・・・。
 それもそのはず。
 この2人は一卵性の双子なのだから、こんな状況で母親を見上げる表情も示し合わせたかの様にそっくりであった。
 光彩斗と光熱斗。
 両親ゆずりの明るめの栗色が映える髪は、兄である彩斗の方が幾分か柔らかい質感のように見えたが、首筋でぴょこんとはねたクセ毛が血の繋がりを思える部分で微笑ましい。
 彼らはどう説明したものか・・・と困ったように視線を合わせながら、靴を脱げば玄関を汚してしまうため、入り口で立ち止まったまま困ったように母親の次の言葉を待ち構えた。

「ごめん、ちょっと汚しちゃって・・・」

 手前にいた兄の彩斗が言いづらそうに切り出したのだが、それはかなり控えめな表現だったと言えるだろう。
 どうすればこれほどまでに服を汚せるのか、はる香には全く想像がつかない。
 思わずぽかんと口を開けて立ちすくんでしまったはる香だったが、そこは親としての長年の経験。

「まずは二人とも、お風呂に入ってきなさいね」

 すぐに気を取り直すと廊下の向こうを指し示してお風呂への直行を命じたのだった。
 それに逆らう理由など無い。二つの揃った声が返事をしたと思えば、あっという間にバスルームへと消えていく。
 それを見送りながら、ため息をひとつ零したはる香は、これから泥汚れとの格闘を思いながら気合を込めると腕まくりをして玄関を後にした。




***




 小学生の男の子が二人、となれば。
 それなりに洋服を汚す機会などいくらでもあることだろう。
 たとえば帰り道に道路わきの細道に誘われて、猫が潜るような穴を通り抜けたり。または川辺の気持ち良い風に誘惑されて草すべりをしてみたり。
 帰りは気がつけば泥だらけだ。
 良くあるパターンだったが、けれどこの兄弟が出くわした「服の汚れる要因」というのは、そのいずれでも無かった。
 もちろん、他の遊びや寄り道をしたせいでも、決して無い。
 ネットワーク世界の平和を密かに守っている小学生は、今日もまたハードな日々を過ごしていたりするのである。

「う~・・・シャツの中まで泥だらけだよ」

 じゃりじゃりと乾いてきた土が裾から零れ落ちる様子を見ながら、顔をしかめた熱斗は思い切って一気に頭をシャツから引き抜いた。
 途中まで脱げて頭がひっかかり、もがいているところを彩斗が手助けをして脱がせると、ぷは、と息をついて大きな伸びをして。

「はぁーっ、気持ち悪かった!」

「早くお風呂で泥を流しちゃわないと」

 よほど汚れが気持ち悪かったのか、裸のままで開放感を味わっている熱斗の姿に苦笑しながら、同じように自分の汚れた服も手早く脱いで脱衣所に重ねていく彩斗の手際は何故か慣れている。
 それを見た熱斗は、思わず彩斗に向き直ると念のために確認をしていた。

「彩斗兄さん・・・あの、お風呂って大丈夫なんだよね?」

 ある意味奇妙にとれそうな問いかけだったが、相手がこの彩斗であるならばそれも納得できることだろう。

「防水もばっちりだから、大丈夫。パパのお墨付きだよ」

 その返事を聞いて、熱斗はホッと安心したように息を漏らした。
 目の前にいる彼・・・光彩斗は、厳密に言うと普通の人間ではないのだ。
 元々はこの様に一緒に触れ合うことも出来ないはずの、電子データで構成された人格プログラム。ロックマンと名づけられた熱斗のネットナビが彼の正体である。
 科学者である父、祐一朗の手によって死んだ彩斗の記憶と情報はロックマンに受け継がれた。そしてまた、その父が開発したシステムの奇跡によって、ここに実体として存在していられる。
 詳しい内容は熱斗に理解できないものでも、ここに彩斗が居ることは確かな事実。
 どうやらさすが天才科学者の父とでも言うべきか。
 水に弱いという電子機器の弱点をどう克服したのかは知らないが、彩斗は普通の人間と同じように生活が出来るようになっているらしい。

「それじゃ、一緒にお風呂はいろう!」

 安心すると同時、初めて兄とお風呂に入るというワクワク感に、熱斗は嬉しそうに笑って扉を開け手を差し伸べた。

「あっ熱斗、あまり走ると・・・」

「うわっ」

 ずでーん。
 派手な効果音を立てて見事転んだ熱斗に続いて、その見事な転びぶりに苦笑しながら彩斗も扉をくぐり浴室へ入る。頭を抱えて唸っている弟を助け起こしてから、壁に掛かっていたシャワーを取ると、コックをひねった。
 途端に勢い良く温かいお湯が彼らの上に降りかかり、引き続き熱斗は悲鳴を上げるはめになった。

「ぶっ!」

 不意打ちだったためか目を開けたままお湯の洗礼を受けた熱斗は、突然の衝撃に身を縮まらせて、その様子を見ながらくすくすと笑い彩斗は楽しそうに自分も熱いシャワーを頭から浴び始める。
 その様子を見た熱斗はぎょっと目を丸くするとバタバタと手を振り回し、シャワーを彼の手からひったくるように取り上げた。

「彩斗兄さん、目に入る、目に入るってばー!」

「え??」

 にこやかに凄いことをしてくれる彩斗に、熱斗が慌ててストップをかけたのは仕方の無いことだったのだろう。
 尋常じゃなく熱いお湯が頭上から降り注ぐのは、さすがにたまったものではないからだ。
 温度調節のされていないシャワーからは際限なく熱いお湯が噴出していて、そのままで浴びるのはとても危険な状態に思えた。もちろんすぐに熱斗がコントロールパネルを操作して適温に設定しなおす。

「温度調節をしないと、やけどしちゃうだろ」

「そーゆーものなんだ?」

 そういうものなのです。

 どこから突っ込めばいいのやら。まだ生身の体を扱う感覚に慣れていない彩斗は、時折とんでもないことをしてくれる。そのため、こうして熱斗は度々驚かされることがあった。
 そんなときは出来る限りフォローしているのだが、こういう時だけ普段とは保護者と被保護者の立場は逆転する。
 それも楽しいと言ってしまえたら、微笑ましいのだけれど。

「彩斗兄さんのは、ちょっとハードなんだよなぁ」

 はあ。とため息をつきながら、熱斗は巻き込まれる方の身にもなって欲しいよと呟いてみる。

「? 何か言った??」

「いーや、何でもないよっ」

 しかしこんなことを彩斗に言ったところで仕方が無い。何せまだ知らないことの方が多い生身の触覚。これから順番に覚えていくべきものなのだから、それを責めるのは酷というものだろう。
 とりあえず、完全に体が馴染むまでに自分の身が持てば良いなぁ・・・と恐ろしい未来予測をたてながら、熱斗は洗い場にある石鹸に手を伸ばして背後に立っている彩斗を振り向く。

「兄さん、俺こっちで体洗うから、先にお風呂入っててね」

 お風呂の入りかたはわかるでしょ、と指で示してみれば、にっこりと微笑みで肯定が返ってきた。
 PETの中にいた頃も一緒に温泉に入ったことがあったくらいだ。「お風呂」という認識は彩斗にもちゃんとあるようだった。
 シャワーで軽く汚れを流し、片足から湯船に入っていく姿を確認して、とりあえず安堵すると、熱斗はボディソープを絞ってスポンジをわしゃわしゃとあわ立て始める。
 自分の体を綺麗にしたら、次は彩斗のことを洗ってあげようと考えながら。

「うわあ、温かいや!」

 ばしゃりとお湯を跳ね上げて、弾んだ声が壁に反響した。
 初めてのお風呂体験は中々の感動らしい。

(こんな風に兄さんとお風呂なんて、入れると思ってなかったもんなぁ)

 思えば、汚れたとしてもPETに戻ってデータを修復すれば良いことだから、こうしてお風呂に入るなんて考えたことも無かった。
 はる香に言われた勢いで2人共慌てて風呂場に来てしまったけれど、今まで出来なかったことが可能になっていくのは、彼らにとって凄く嬉しいことなのだ。

(ママにちょっぴり感謝、だよな)

 これはまた、新たな発見である。
 今日だけじゃなくて、これからもこうして一緒にいられる時間が増えていけば良いなと考えながら、熱斗はぼんやりと泡を眺めていた。
 初めてのことに戸惑うのは当然のことだろう。今回のお風呂だってそうだ。
 いままでPETの中で一緒に温泉を体験したこともあったけれど、こうして本人がお湯に触れて、体を洗ったりするのは初めてのことだった。
 だからこそ、知識として知っていてもこうして認識に差が出てしまう。

「でも、これから慣れていけば良いんだよな」

 これからはずっと、こうしていられるのだから。
 そう思うとなんだか嬉しくて、くすりと笑うと熱斗はぶくぶくとあわ立てたスポンジを握り締めた。
 けれど。
 そんな和やかな気持ちはこの状況下で持続できないらしい。

「熱斗!危なーいっ!!」

「えっ・・・うどぁ!?」

 どーん、と脇から突然強い衝撃で横へと弾き飛ばされた熱斗は、身構えも出来なかったために勢い良くひっくり返り、一歩間違えれば硬い床に後頭部強打の危機だ。ドキドキと冷や汗を流しながらいきなり何事かと見上げれば、彼を突き飛ばした格好のままで仁王立ちの彩斗の姿。
 何がどうしたのか、まったくわからなかったけれど。とにかく雰囲気から尋常ならざる気配を感じ取った熱斗は、じりじりと狭い浴室の中を下がれるところまで後退した。

「な・・・何があったの、彩斗兄さん」

 とりあえずは尋ねてみる。何だか怖かったので、控えめに。
 恐々と見上げる視線の先で、きらりと瞳を閃かせた彩斗は振り向いた勢いのままにシャワーのコックをひねると、勢い良く吹き出したお湯を座り込んだ熱斗に向けて浴びせかけた。

「うっぎゃあああーっ」

 熱、熱、熱!
 大声で悲鳴を上げながらじたばたともがく熱斗に、真剣な面持ちのままで容赦なくお湯を吹きかける彩斗の姿は、オレンジの救命胴衣を纏った救助隊・・・などではなく、鬼のようであったと、後に熱斗は語る。

「だって熱斗、全身泡まみれじゃないか!」

「泡って・・・、そんな、何も問題無い・・・っ」

 どうやら何を勘違いしたのか、泡が危険物であると判断したらしい彩斗は全力でそれを排除しようとしているらしかった。
 最愛の弟を守ろうという気持ちは痛いくらい嬉しい。
 けれど、実際には降りかかるお湯が痛い。

「待った・・・兄さん、待ったっ」

 とにかく落ち着いてくれと、大声を張り上げることしばし。
 ようやく彩斗が納得してお湯を止めてくれた頃には、頭からつま先までびっしょりと濡れてへたり込む熱斗の姿があった。

「・・・し、死ぬかと思った」

 大袈裟であったけれど、冗談とも言い切れない。
 こんな調子で彩斗のペースに巻き込まれていては、身がいくつあっても足りない気がする。

「知らなかった。泡って体を綺麗にするためのものなんだね」

「そ・・・そうなんだってば!」

 泡を吐くウイルスがいるのだが。
 お風呂に入って体を洗ったことが無い彩斗は、どうやら熱斗が体を洗っていたボディソープの泡を、敵の攻撃と勘違いしたらしい。
 どうして突然家の中でウイルスに攻撃され無ければならないのか、聞きたいところでもあったけれど、突っ込むべき相手は天然でどこまでも本気だ。
 がくりと肩を落とした熱斗は、滴り落ちる雫を見つめながら、先行きに大きく不安を感じて深々とため息をついた。

「確かに、ロックマンも体を洗っているときは一緒じゃなかったもんなぁ」

 とにかく自分の安全を確保するためにも、これ以上突拍子のない行動を取られることだけは避けたいところだ。
 予測しかねる兄の行動に頭を痛めながら、熱斗はひとつずつ、丁寧に説明をしてお風呂の入り方を教えていった。

「で、これがシャンプー。髪を洗うときの石鹸は、体を洗うときのと違うから気をつけて」

 2人で肩を並べて湯船につかりながら、のんびりと会話を楽しむ。
 内容がお風呂の説明というのも妙なものだったけれど、熱斗にとってはどんな話も兄と共有するものならば嬉しい時間であり、面倒と思うはずも無い。
 彩斗にしてみれば、熱斗と過ごす時間を大切に思うのは当然のことながら、初めて触れる出来事全てが新鮮で感動の連続で、真剣な表情で彼の言葉に耳を傾けていた。

「熱斗、これは?」

「ああ、それはバスオイルだよ。ママが買い物の時に貰ってきたみたい。お風呂に入れると溶けて、良い匂いがするんだって」

「ふーん」

 ばちゃばちゃん。

「わわーっ、一個で良いんだよ!」

 言っている傍から、手に持っていたケースの中身をお湯に放り込む彩斗に、熱斗は慌てて制止したのだが。
 しかし、既に遅かったようで、途端にきつい花の香りが室内を覆った。

「確かに良い匂いだね。・・・入れすぎちゃったみたいだけど」

「兄さんーっ」

 確かに甘い花の良い香りだ。けれど、それも限度というものを知っていればの話で。

(こ・・・これはさすがに・・・)

「熱斗?」

 頭がぐらぐらするような香りの中、湯船から立ち込める湯気のせいだけではなく、覗き込んでくる彩斗の顔もなんだか揺らめいて見える。
 それが自分自身の体が揺れているためだと気がつく前に、熱斗は盛大なお湯飛沫を上げてお湯にダイブしていた。

「ちょっと、熱斗!?」

 熱斗、沈没。
 慌ててお湯から抱え上げた彩斗の腕の中で、ぐんにゃりとタコのように伸びた熱斗は完全に目を回しており・・・。

「わわ、どうしよう。体温が異常に高いし・・・っ」

 状況を見れば当然のことながら。
 熱いシャワーを浴びさせられたり、湯船で長話をしたうえ、極めつけはむせかえる様なバスオイル攻撃。
 よほど熱いお湯が好きでなければ、確実にのぼせるだろう。
 どちらかというと平然としている彩斗の方が不思議なのだ。

「ねえ、しっかりして、熱斗ーっ」

 それから大慌てで廊下に飛び出し、体も拭かないままに熱斗を抱えはる香いる台所まで走っていったため、台所までの道は水浸しになり。
 彩斗には、お風呂を正しく理解するまでの入浴禁止令が言い渡されて。




「ねえ、お風呂って結構怖いものなんだね」

 またしても新たな誤解が生まれたらしい結果に、ぱたぱたと団扇で風を送られて熱を冷ましていた熱斗は、がくりと兄の膝枕で涙したという。




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コメント▽
ものすごくお待たせしてしまってスミマセン(大汗)
リクエストを募集した直後から仕事やオフ活動が忙しくなってしまって、ようやく1つ目のリクを上げることができました。お風呂で兄弟v
もう既に、リクエストを聞いた段階からどんなお話にしようかとウキウキだったのですがvv ・・・が、出来上がってみればどたばたギャグで兄弟ラヴなシーンがあったのか無かったのか・・・;;; あわあわ、申し訳ないです;
けれどすごく楽しく書いてました。お風呂で大暴走な兄さんです。

→この小説は、10000hit感謝企画でリクエスト頂きました。ありがとうございました!


update 2009/04/09
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