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世界に回帰する(22)
22.


 見慣れた白い花が舞う。

 ああ、またこの夢か。
 行かないでくれ。
 どうか、どうか――!

「――っ」

 勢い良く跳ね上げたシーツが、音を立てて床へと滑り落ちた。
 その音に促されるように覚醒した意識は、現実に戻る代償であるとでも言うのか、先ほどまで掴みかけていた夢の情景をサラサラと霧散させていく。
 目の前を埋め尽くしていた幻の花畑は消え去り、薄暗い宿屋の天井が見え始めると、ガイは強張った頬を解きほぐすように深い溜息を零した。
 カーテンの隙間からは漏れる光は頼りなく、目が慣れてくれば周囲のものを判別できる程度の光源はあったが、それは窓から星明りが差し込むせいで、夜明けはまだ程遠い時間であることが判る。

 結局あれから自分もルークと同じく薬を飲み、半ば自棄だったのか、夕食も取らずにベッドにもぐりこんだ。
 最初はただ何も考えずに居たいと思い、そうしていただけだったが、いつの間にか本当に眠ってしまったらしい。
 さすがはシュウの処方した薬・・・とまで考えて、けれど、それだけ強い薬が出されていたということに表情を曇らせる。

「それくらい、放置できない状態ってことか」

 これは元々ルークに出されたものだった。
 つまりルークの状態が、医者として放置できないほどに追い詰められているということだ。
 暗い部屋明かりに辛うじて確認できた、青白い顔色を思い浮かべて、ガイは深い息を吐き出した。

「俺のせい、か」

 ルークをそんな状態にまで追い込んでしまった原因は明白だ。
 悔しさを紛らわすように傍らに拳を振り下ろせば、がつんという鈍い音と共に古びたスプリングが軋んだ悲鳴を上げる。
 これがいつもの相部屋であったならば、確実に隣人の眠りを妨げていたことだろう。
 だが、今日に限って部屋はガイとルークにそれぞれ個室があてがわれていた。
 旅の資金も豊富というほどではないはずなのに、そんな中、自分とルークに個室をわざわざ割り当ててくれたのは仲間たちなりの気遣いなのかも知れない。確かに最近は夢に魘されて飛び起きることも多く、同室の人物に気兼ねせず過ごせるのは正直言ってありがたかった。

「こんなときに俺までこんな調子じゃあな・・・」

 食事にも顔を出さなかった自分達に、宿へ戻ってきた仲間たちはどう思っただろうか。
 そこまで考えて、ジェイドの呆れたような皮肉顔が目に浮かび、ガイは自嘲気味な笑みを零す。
 そして多分同じように薬で眠ってしまっているはずのルークも、夕食を取りそびれているのだろうと思い至った。
 いつもならば何の迷いも無くルークの分も食事取りに行くのだが、最近ぎこちなく避け続けていたせいか、ガイは行動を躊躇ってしまう。そうすることによって、また互いの間に気まずい距離を作る結果になってしまうのだろうけれど。
 薬を届けたときの様子から見て、まだルークは自分の気持ちに整理がついていないようだった。
 ガイもそれは同じである。

 良かれと思ってしていた隠し事、だったのだけれど。「良かれ」という考えは、結局相手の気持ちを自分が勝手に決め付けていたに過ぎない、自己欺瞞だと思い知らされた。

(俺は、ルークがそれを知ったときどう思うかなんて、想像してなかった)

 ・・・いや、想像はついただろう。
 傷つくだろうと思っていた。だから、話すことが怖かった。
 信頼していた師に裏切られ、仲間たちからは突き放され、「本物」のルーク・フォン・ファブレが目の前に現れたもう一つの過去で、ガイはその目でルークの顔が絶望に染まる様を見てきたのだから。

 ―――未来、て何のことだよ。なあ・・・説明しろよ、ガイ!

 彼の詰る声が耳の奥で何度も繰り返され、消えない。
 詰め寄るルークの燃えるような翠の目に貫かれ、ガイは言葉を返すことが出来なかった。
 いくらでも誤魔化せば良かったはずだ。
 言い訳を重ねても良かったと思う。
 どちらにせよ、最悪の形で誤解させたままという状況だけは、回避できたかも知れないのに。

「何てざまだよ、なぁ、ガイラルディア」

 たった一つの隠し事がバレただけで、これだけの亀裂が生じている。
 ならば、もう一つの隠し事まで知られてしまったら、互いの間にある溝は二度と埋まらない決定的な距離になってしまうのではないだろうか。
 そんな恐ろしい想像が巡り、ぞくりと泡だった肩を強くかき抱く。
 そうしたところで、回した腕の中に抱き寄せる存在がないことが、余計にガイの心を冷やしていくだけだったけれど。

「何て話せっていうんだよ、お前は」

 説明しろよ、と叫んだ子供の顔は悲痛に歪んでいたけれど、きっと今の自分も相当な状態だったであろう。
 真っ直ぐに見据える翡翠の瞳を覗けば、情けない自分の顔が浮かび上がったに違いないから。
 結局は臆病なまま結果を先延ばしにしてきたしわ寄せが、ここに来て一気に降りかかったのだ。

「俺は・・・俺が、お前に言えることなんて・・・」

 ルークがそう望むならば叶えてやりたかった。
 そのために自分達はここに存在しているのだと思っていたのに。

「くそ・・・何のために、俺たちはここに居るんだ・・・!」

 ガイがルークに隠しているもう一つの事実。
 自分がファブレへの復讐のため潜り込んだ刺客であることを、彼には決して知られるわけには行かない。
 それはある意味、自分達が未来の記憶を持っている異質な存在であること以上に、話しがたい真実だった。


 どうすればよかったのか、判らない。
 それが判っていれば、こんな風に悩む必要も無かっただろう。


 結局は一度経験した過去であっても、人は進むためにもがくことしか出来ないのだ。


end.

***
まったく進展がなくてすみません;
ガイもルークもそれぞれ悩み、歩み寄るための準備期間です。


update 2009/04/09
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