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世界に回帰する(20)
20.


「あ、ティア! 検査の結果はどうだった?」

 扉を開ければ、そこに張り付いていたとでも言うのだろうか。頬に薄く扉の線を残した少女が身を乗り出して、第一声でティアの容態を尋ねる。
 その勢いに押されながらもシュウから伝えられた通りの結果を伝えれば、急を要する状態ではないという事に取り敢えずの安堵が辺りを覆った。

「ルークは?」

 様子を見に行ったはずのルークの姿が無いことに真っ先に気づいたガイが、ちらりと扉を伺う。傍に居るとぎこちなさが目立つ二人であったが、こうして彼を気にかける姿は相変わらずのものだ。その姿に微笑みながら、ティアは先ほど部屋の中でのやり取りを簡単に説明した。

「確かに検査くらいしておいた方が良いんでしょうね」

 検査をしても減るものではありませんし、とジェイドは飄々とした態度で答える。
 言いながらその実、先ほどアッシュも検査を受けるようにとベルケンドの職員に引き渡したばかりで、ルークの事に関しても、事前にシュウに検査を頼んで置いたのは彼なのだ。
 思い返してみれば、こっそりとティアの様子を伺いに行こうとしていたルークを黙って見送ったところからして、ジェイドの思惑通りだったのだろう。先を見通す彼にかかれば、子供の行動など全てお見通しというわけか。

「嫌がってたみたいだけど、シュウ先生に無理やり連れて行かれたわ」

 その姿は誰もが想像でき、何箇所かから苦笑が零れた。
 きっと歯医者を怖がる子供の姿が頭に浮かんだのだろう。ティアもそれに違わず先ほどのルークを思い出してくすりと笑い、そしてジェイドを振り仰いだ。

「本当に、ルークは大丈夫なのですよね、大佐?」

 検査をすると聞くと、その結果にどうしても不安が沸いてしまう。悪い結果が出たとしてもルークはそれを隠してしまうだろうから。そして、今の彼らには拙い嘘を直ぐに見破ることが出来てしまうから。
 だからこそ、扉の向こうから彼が戻ってくる瞬間が恐ろしかった。

「今のところ私も常に気を配っていますが、異常は出ていませんね」

 全員の不安もジェイドは理解している。いや、彼自身もその不安を抱いている人間の一人なのだ。
 そんな彼の言葉に偽りは無いようで、今回の検査も念のための取り計らいなのだと改めて説明を加える。

「・・・良かったぁ」

 そうすると漸く完全に安心できたのか、アニスが心から嬉しいと溜息をつくのに、ティアも同じ気分で頷いた。

「それにしても・・・」

 ちらり、と向けられる視線の先には、先ほど彼女が出てきたばかりの扉がある。

 ――検査なんて、別に俺は何ともねーってば!

 ――ですからルークさん、これは単純に経過を見るためのものですから。

 ――んなもん必要ないだろ、元気なんだからさっ。

 ――そういうわけには・・・。

 ガタガタと騒がしい音が入り混じり、聞き慣れた声が外まで漏れてきていて。それが時折途切れがちになるのは、彼が中で走り回りながら叫んでいるせいらしかった。

「大丈夫、みたいね。本当に」

「そのようですわね」

 先ほど思い浮かべた「歯医者を嫌がる子供」というイメージがあながち間違いではなかったことに、和やかだった笑いは苦笑が混じり始める。
 物が倒れる大きな音とシュウの悲鳴が聞こえてきたときには、内心謝らずには居られなかった。

「ルークってば本当にお医者さん嫌いなんだね」

 まだ続きそうな扉の向こうの騒動に、ずっと黙って聞いているのが居た堪れなくなってきたのか、アニスが間を繋ぐように話題を持ちかける。
 別に辛い検査をされているわけではないのに、これでは本当に子供のようだと。
 我侭放題に振舞っていたときも、このように子供じみた振る舞いを前面に出すのはどちらかといえばルークが嫌っていたことだ。

「そういえば、ルークは以前からお医者様が大嫌いでしたわね」

 問われて思い出すような仕草をしていたナタリアが、ぽつりとそんな言葉を漏らした。

「そうなんだ?」

「ええ。そうですわよね、ガイ」

 記憶を失ったというルークがバチカルの屋敷に戻ってきてから、隠すように軟禁された彼にナタリアが自由に会うことは難しくて。それでも何とか時間をつくり会いに行った記憶を引き出しながら、彼女よりももっと長い時間を共に過ごしていた筈の幼馴染へ同意を求める。
 けれどその幼馴染は、先ほどからずっと扉をぼんやり見つめたまま立ち尽くしていた。

「・・・ガイ」

「あ、すまん・・・えと、そうだったな」

「もー、しっかりしてよ?」

 茶化すようにアニスがフォローすると、ガイはもう一度「すまない」と呟き、けれどまたすぐに視線を扉へと戻してしまう。
 その姿に、これは本当に重症だと誰もが頭を悩ませた。
 実際、日に日に濃くなっていく彼らの目の隈も心配のもとであったけれど。一番見ていて辛いのは、こうして互いを思いながらも踏み切れないでいる様子にかける言葉が見つからない時である。
 お互いを必要としているのは明らかであるのに。

「あの、ガイ――?」

 かける言葉を捜しながら、再びその名を呼びかけた瞬間。
 バターンッ、と耳を塞ぎたくなるような音を立てて、閉ざされていた扉が跳ね開けられた。そのため、ナタリアは差し出しかけた手もそのままに驚き硬直してしまう。
 その扉を開けた人物は今の今まで騒ぎの元であった赤毛の青年で、その髪に溶け込むほど顔を赤くして握り締める白いコートの裾には中での奮闘を表すようにくたびれたしわが刻まれていた。

「ルーク、どうだったの?」

 驚きながらもとにかく結果を知りたいとティアが慌てて尋ねれば、無言で不機嫌な顔を隠しもせずに彼は「俺、もう宿に戻ってるから!」と叫ぶや否や、外へと走り去ってしまう。
 止める間もあらばこその素早さに、一同は呆然と見送ってから、追って顔を出した男を一斉に向き直った。

「やれやれ、参ったなぁ」

「シュウ医師」

 頬に引っかき傷は、もしかしなくともルークがつけたものなのだろうか。
 日にあまり当たることの無い医者の白い肌に、痛々しく赤い線が刻まれているのを見て、ティアの顔がサッと青ざめる。

「どうも虫の居所が悪かったらしくてね。無理に検査しようとしたら、引っかかれてしまったよ」

「す、すみません!」

 いくら子供じみた行動が見えるとはいえ、7歳の子供のように分別のつかないルークではない。こういう場においての礼儀だってわきまえているはずなのだが・・・。
 戸惑いながらもティアはもう一度謝罪を告げると、その間にナタリアがシュウの頬に治癒術を施した。

「いやいや、たぶんあれは私が悪かったんですよ。ちょっと逆鱗に触れたみたいで」

「?」

 その言葉に引っかかるものがあったものの、場をとりなすようにジェイドが手早く確認を取る。

「それで、異常は特にありませんでしたか?」

 普段はジェイドがルークの体調を見ているのだが、専門的な機材が揃ったベルケンドほどしっかりとした検査ができるわけではない。だからこそ、機会があればしっかりとしたデータをとっておきたいのだ。

「ええ、異常なしでしたよ。音素も安定しています・・・ただ」

「ただ?」

 医者の口篭るようなそぶりにギクリと緊張が走る。
 けれどシュウの言葉は周りが心配するような重大な疾患を告げるものではなかった。

「少し寝不足みたいでしたね。苛々しているのも、それが原因のひとつでしょう」

 安定剤を処方しておきましたから、酷いようだったら飲ませて下さい。
 当たり前のようにそれを渡されて、咄嗟に袋を受け取ってしまったガイは困ったようにじっと手の中のそれを見下ろした。
 おそらく必要ならばガイも飲みなさいという遠まわしな言葉なのだろう。袋の中身はずしりと量があり、一人分の薬だとはとても思えない。

「けどあまり薬に頼りすぎちゃいけませんよ。どうしても眠れない時に使用してくださいね」

 医者というものは、他人の状態にどこまで敏感なのか。
 続けられるシュウの説明を聞きながら、手渡された薬の袋を握り締めて、唇を噛んだ。


end.

***
ものすごく間が開きましたが、久々に更新です・・・っ。


update 2009/04/09
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