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世界に回帰する(19)
19.


 全てのものは「他人」。
 違うからこそ相手を理解しようと歩み寄ることが出来る。
 だがそれは同時に、違う存在を完全には理解出来ないのだという事実をも示していた。
 皆、気づいているのだ。
 今までは当たり前だったものが、少しずつ軋みをあげて歪んでいく、感情の不協和音に。

「後ろ、気をつけて!」

「あ、悪ぃガ・・・いや、ティア」

 何かを言おうとして押し黙る表情を、何でも無いふりをして流せるのは一部の者だけで、それ以外のものたちはあからさまに心配の目を向ける。そうすればルークは気を使って壁をつくるばかりだと言うのに。けれどそれを知っていながらも同じように眉間に皺が寄っているのを自覚して、ガイはそっと目を逸らした。
 伸ばそうとしていた手は、ルークが気付かぬままに下ろされる。
 幾つかの伺うような視線を受けながら、その降ろした手のひらをきつく握り締めた。
 優しくすることに躊躇っているのではない。
 彼に拒絶されることが、これほど恐ろしいと初めて自覚したのだ。

「今日は次の町についたら宿をとりましょう」

「あ・・・ああ、わかった」

 求めるように彷徨っていた翡翠の目は、やがて諦めの色に染まり最後には自信無く伏せられる。

「あからさまに落ち込んでますわね」

「元々隠し事の出来ない子でしたからねぇ」

「ほんと、判り安すぎ・・・」

「そういうアニスも、顔に出ていますよ?」

 周囲はだた見守ることしか出来ない自分をもどかしく感じながら、それでも笑顔を見せていて欲しいという思いを必死に押し隠していた。
 この状況で、笑えということは酷な要求だとわかっていたから。




「瘴気の濃度はそれほど増えていないようですね」

「シュウ先生のお陰です」

 独特の薬品類が放つ匂いが室内には充満している。毎日そんな中で過ごしている彼ら研究者は慣れてしまっているのだろうが、普通の人間がそれを嗅げば真っ先に白い診察室をイメージするほど独特のものだ。
 ベルケンドのこの場所を訪れるのはこれで何度目になるのだろうか。
 この旅を繰り返すことになる「以前」にも、幾度と無く足を運んだ施設のため、実際に診察を受けた回数よりも余程長く通っているような気がしてくる。

「症状は小康状態を保っているようですが、無理は禁物ですよ」

 いつもの薬を出しておきます。
 そう言いながらカルテに専門的な単語を流れるように書き込んでいく医師の姿を見て、ティアは襟元を調えながら小さく謝礼を告げた。
 彼にはずっと無理ばかり頼んできたというのに、嫌な顔もせず尽力してくれる様子は見ていてとても頼もしい。

「また暫らくは寄れないのでしょう?」

「あ、はい」

「じゃあ薬は多めに用意しておきますので」

「・・・ありがとうございます」

 あまり多用することは望ましくない強い薬でも、いまのティアには必要なものだ。
 障気に毒された体は時折酷い痛みを訴えることがあるため、戦いの中に身を置く以上強い痛み止めを使用するのはどうしても仕方の無いことだった。
 シュウも最初のうちこそ入院を勧めていたが、ティアは頑なに首を縦に振らなかったし、そしてルークたちの旅の重要性も理解た上で、今は協力してくれている。
 彼の治療のお陰もあって痛みもあまり感じない体をそっと抱きしめて、シュウの背に頭を下げた。

「ティア、診察終わったのか?」

「ルーク」

 そこに、通路に繋がる扉を控えめに半分だけ開いて赤い色がちらりと覗く。
 ティアはすぐにその人物が誰であるのかを理解すると、服の裾を軽く整えて彼を診察室へと招きいれた。
 先日はパッセージリングの操作を終えた後で不覚にも倒れてしまい、大分心配をかけてしまった。覗き込むルークの表情は不安に沈んでいて、まるで彼の方が病室に似つかわしい者にも見える。
その視線を優しく笑顔で受け止めて、ティアは先ほどのシュウに告げた言葉と同じく。「大丈夫よ」と答えた。

「大丈夫なわけ、ないだろ」

 けれど優しい笑顔と共に言葉をかけられても、ルークの顔は曇ったままだ。

「母上みたいに、すげー青い顔してる」

 小さく吐息のように吐き出された不安は、ティアに彼の母親の姿を思い出させる。
 寝てばかりの生活に細くなった体は目の前の彼とは似ても似つかないはずなのに、今にも消えてしまいそうな雰囲気はどこか重なるようでもあった。

「けど、本当に大丈夫なのよ」

 定期船でティアを心配してくれたのも、母親の体を心配して屋敷に駆け戻っていったのも、彼の優しさ故の行動なのだろうけれど。一番の理由は、身近にずっとそんな母の姿を見てきたという不安が根付いていたのかもしれない。
 その目の下には日焼けとは明らかに違う色がこびり付き、それにシュウも気づいているのかじっとルークの横顔を見上げている。
 ティアはこの会話を切り上げるように椅子から腰を上げると、病魔に冒されている様子もなく真っ直ぐに立ち上がった。

「シュウ先生の言いつけを守って薬は飲んでいるし、それに・・・」

 何故かは判らないが、以前の記憶の中で全てのパッセージリングを操作していたときよりも、ティアに掛かる瘴気の影響は少ないように感じるのだ。それを説明しろと言われれば、漠然としすぎて言葉には出来ないけれど。多分それは気のせいではなかった。
 なぜならばティアが感じているそれは、実際にこの定期検査でも数字として現れている。
 ティアはこの外郭大地を降下させるための作業で、体に大きな障害を残すであろうことを覚悟していたというのに。

(これは、ローレライやユリアの加護なのかしら)

 何かの存在に守られている。
 この過去へと遡ってきてから、時々感じる温かな気配に、ティアは幾度となく安心感を覚えていた。

「ティア?」

「え、ああ、ごめんなさい」

「・・・本当に、大丈夫なのかよ?」

「ええ」

 繰り返しそう答えると、納得した様子ではないもののルークは短く「そっか」と頷く。
 酷いことを言っているという自覚がティアにはあった。
 以前障気に侵されていた時もルークは同じように心配をしてくれたのだが、ティアはそのまま障気で弱る身体を受け入れる覚悟をした。
 あの時は気丈に振舞って自分を支えるので精一杯だったのだけれど、後にルークが世界のためにその命を捧げなければならないと聞いたとき、己がどんな思いを彼に強いてきたのかを思い知ったのである。
 無意識のうちに彼へ与えていた痛み。
 ティアの障気を引き受けて消えていった、イオンの犠牲。 
 今受けているこの苦しみは、その罰なのかも知れない。
 あの時は自分が犠牲になればとすべてを押し殺して受け入れたつもりだったが、結局怖くて逃げていただけだ。

(覚悟を決めたと思っても、何も変わってなかったと後で気付くのね)

 それはルークがいつか言っていた言葉だった。
 何度覚悟を決め直しても、後から自分の力不足に気が付くのだと。


end.

***
5千字を軽く越えてしまいましたので、この辺りで区切ります。ベルケンドのエピソードはちょっと長くなりそうです~。あわあわ、気軽に拍手短文と思って始めたシリーズが気づけば何だかとんでもないことに・・・っ。


update 2009/04/09
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