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世界に回帰する(17)
17.


 暗い路地をふらふらとあても無く歩く。
 彼の手を振り払ったのは、初めてのことだった。

「・・・ガイ」

 物心ついた時から・・・いや、自分が目を開けていると認識した瞬間から彼はルークの目の前に居て、いつでもルークのために差し伸べられていたのに。
 それを、自ら跳ね除けてしまった。

「俺じゃ、なかったんだな」

 瞼の奥が酷く熱くなる感触に唇をきつくかみ締めて、きっと瞬きすればこの熱いものが零れ落ちてしまうことをルークは知っていて、堪えるように息を詰める。
 自分が本物のルークでは無いことを知った時も、こんなショックは感じていなかったのでは無いだろうか。
 確かにレプリカという事実はいままでの存在自体を否定されるにも等しく、覚悟をしていたとはいえ、聞くには辛いことだった。
 けれど、それでも平静を保って聞くことが出来たのは、ガイの温かい手がずっと触れていたからだ。
 ルークの涙を魔法のように止めてくれたのは、昔から変わらず彼ひとりで。
 ガイが居なければ、涙ひとつ満足に止めることも出来ない。

「・・・俺じゃないんだ」

 仲間たちからの愛情をその身に受けるほど、同時にそれが全て見ず知らずの「ルーク」へ向けられた想いだと感じてしまって。
 悪循環する嫉妬と自己嫌悪は、どこに昇華すれば良いのかも、誰にぶつければ良いのかもわからない。
 誰も彼にそんなことは教えてくれなかったから。

「嫌だ、こんな・・・」

 屋敷では、過去の「ルーク」と比べられて。
 今度は仲間たちに、未来の「ルーク」を求められる。

 どこにも今の自分を求めてくれる者は居ない。
 どこにも、ルークの居場所は無いのだ。

「俺は、もう一人の俺の居場所も奪っているのか?」

 アッシュは自分の居場所をレプリカに奪われて、その憎しみを抱き7年を過ごしてきたと言っていた。
 彼からぶつけられた殺気は本物で・・・
 ならば、もうひとりの自分はどうなのだろう、と考える。

「皆から、もうひとりのルークを、俺が奪ってる・・・?」

 アッシュだけではなく、他の仲間たちからも同様の憎しみを向けられたとしたら。
 想像して、その恐ろしさにルークは肩を抱え蹲る。
 こわい。
 そんな、恐ろしい光景を見せられるくらいならば。
 最初から自分の存在など全部消してしまいたいのに。

(ガイからも憎まれているかもしれない俺が奪ったから俺が・・・っ)

 押さえきれない感情は誰も抑える者も無く、自分で抑える術も知らずに、無意識に髪をくしゃりとかき混ぜ指先で引き掴んで。
 けれど渦のように膨らむ不安と感情が、爆発するのでは無いかと思えたその時。
 キィン、と。

「痛っ」

 覚えのある痛みがこめかみを打って、ルークは咄嗟に額を押さえた。

「逃げるのか」

 それは回線を繋げたときの痛み。
 ルークは次に聞こえるはずの声の主を思い浮かべたが、それがフォンスロットを通したものではなく鼓膜を振るわせる実際の声で。
 驚き、振り返る。

「あ・・・」

 夜露に濡れた草を静かに踏みしめ、音も立てずに何時からそこに居たのだろうか。
 アッシュ・・・本物のルークが、そこに立っていた。

「逃げるのか?」

 再度問われたその言葉に、自分へ向けた質問なのだと気づきルークは小さく首を左右へと振る。何も考えずに宿をふらりと抜け出したが、どこかへこのまま逃げてしまおうという気持ちは全く無かった。
 もしかしたら無意識にそんな思いもあったのかもしれないけれど。

「なら、何をそんなに怯えている」

「・・・」

 的確に今の心境を言い当てられて、まるで全てを見透かされるような感覚に思わず身を引く。
 完全同位体同士での通信はあくまでも声と感覚を伝えるもので、それがどれほどの精度を持つかなどルークにはわからなかったが。
 自分の中に抱える感情を覗かれるのは、誰でも良い気持ちでは無い。特に、今のように自身ですら感情の整理が出来ない時ならば、なおさらである。

「答えろ」

「―― っ」

 容赦の無い鋭い言葉・・・アッシュのそれは、鋭い刃物のようなものだ。
 的確に弱いところを貫き、相手を傷つけることが出来る。
 それでもルークが何でもないように真っ直ぐその目を見返して、問われた言葉をゆっくりと受け止めれば、アッシュは意外そうな表情で少しだけ眉を震えさせた。

「怖いからだよ」

 どうせこの相手には何もかも悟られてしまうのなら。
 誤魔化しも、取り繕うことも必要は無い。

「みんなのことが、怖いから」

 告げる答えを深い緑の色がじっと見つめていて、その中に妙に緊張した表情の自分の姿を捉えルークは苦笑する。
 これほど情けない顔をしていれば、確かにアッシュが「逃げるのか」と問うのは納得だった。

「俺はたぶん、俺自身をまた皆に否定されることを怖がってるんだ」

「お前は、あいつらがそんなことを言うように見えるか?」

 アッシュの言葉にゆるゆると首を横へ振れば、ならば何故と問い詰める視線を感じる。素直な反応に判りやすさを覚えながら、それは多分ルークもアッシュも元は同質の人間であるからなのだろうと・・・今更に同位体という事実を実感した。
 確かにアッシュが言う通り。
 みんなが、そんなことを言う筈は無い。
 とても優しい彼らに限って、それは絶対にないことなのだろう。

「・・・けど、気付いちまったから」

 そう、気付かなければ良かったのに。

「皆はずっと、違う「ルーク」を見ていたんだって」

 皆の心に潜む、ルークにとって「恐ろしいもの」に、気付いてしまった。
 言わなくても目が探している。
 笑いかければ何かを懐かしむように、悲しい顔をする人たち。
 それは、つまり・・・
 誰も自分を見てくれない、ということ。

「・・・・・・」

 溜息に近い小さな声で最後の言葉を吐き出すルークに、アッシュは瞠目したように立ち尽くしたまま、驚いたような表情で唇を僅かに震わせた。
 それはいつも彼が怒り出す直前に見せた仕草にとても似ていて、呆れ果て次なる罵声が飛び出すのではとルークは身構えたが、予想した彼からの反応は何も無く不気味なほどの静けさだけが過ぎていく。

「アッシュ?」

 恐る恐る、名を呼ぶと。
 何故か口元を歪め、嫌そうに苦笑いをする自分と同じ顔がそこにはあって。

「全く、みっともねぇ」

 吐き捨てられた嫌悪の言葉に、鋭く身を竦めた。
 けれど何故かそれは叩きつけられたというよりも、自嘲するかのようにひっそりと呟かれたもので。違和感が拭えずそっと相手の緑の瞳を見上げれば、見たことも無い穏やかな眼差しと真っ直ぐにぶつかる。

「目の前に見せ付けられて、やっと気づくとは・・・」

「?」

 そしてその目が、不意にきつい光を宿すと。

「俺は、お前が憎い」

「・・・っ」

 悪意を隠しもせずに突きつけられた。
 初めて対峙したときと同じく、それはルークに震えるような戦慄をもたらすものに思えたのだが、逆に隠すことなく真摯に向けられる思いが今は安心させられる気もして。

「お前が羨ましい」

「え・・・」

「妬ましい」

「アッシュ?」

 並べられる単語はどれも負の感情を示すものなのに、傷つけるために吐き出されるものとは違うのだと感じられる。

「ルークが得るはずだった、全てを、7年間お前に奪われてきた」

「ごめ・・・」

 それは彼がルークのために強いられてきた7年間の強い孤独だ。
 反射的に謝ろうとすれば、ルークの言葉を聞くもせず、アッシュは突然フォンスロットで通信をしてきた。
 当然ながら酷い頭痛に襲われたルークは歯を食いしばって言葉を遮られる形となって、アッシュがそれを狙っていたのかまでは判らないが、そのままフォンスロットごしに言葉が響く。

 ――― だが、それは事実であっても真実じゃねぇ。

「何・・・を・・・」

 ――― お前が受け取ったものは、最初から他の誰のものでも無いんだよ。

「意味、わかんね・・・っ」

 断続的にズキズキと響く嫌な頭痛が気になって、アッシュの言葉を深く考えられない。
 何か大事なことを言われていると感じてはいたのだけれど。

 ――― 意味は自分で考えるんだな。

「は?! ちょ・・・待てよ、アッシュ・・・!」

 神経を手掴みされるような不快感はいつも慣れず、ルークは目じりに溜まった涙を零さないようにと目を伏せる。
 すると、ふっと軽くなるように痛みが消えて。

「・・・アッシュ??」

 そろりとあげた視線の先に、もう同じ赤い色は見つけることが出来なかった。


end.

***
アッシュはツンデレなので、素直にゴメンなんて言いそうに無いなぁと思いまして。けどただのルークいじめっぽくなった気も(笑)
一足先に彼の方が気がつきました。同じ事で悩む似たもの同士(同レベル)たち。
ルークが周囲から受け取った好意はルークのものでしかなくて、そしてそれによってアッシュに対する愛情が消え去るわけでもありません。


update 2009/04/09
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