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世界に回帰する(16)
16.


 また、夢をみている。
 白い花が舞い散る中に、見慣れた赤い色を見つけて何かを叫んだ。
 まるで花に埋もれるように、その赤い髪の青年は切なそうに微笑みながら、唇を震わせて何かを告げるのに。
 耳にはなぜか、ざわざわと風にまかれて飛んでいく白い花びらがたてる音しか聞こえない。

(なんだ・・・何が言いたいんだ)

 夢が突然途切れることも、ガイは知っていた。
 そう、これはいつもの「夢」なのだから。
 予測は正しく当たっていて。その直後、唐突な覚醒によって速まった脈拍は痛いくらいの鼓動を打ちながら、ガイを現実へと呼び戻した。

「また、あの夢・・・か」

 起き上がればまだ窓の外は薄暗く、夜明けが遠いことを知らせている。
 しかし目を閉じても焼きついた夢の光景が心を波立たせて、安らかな休息は訪れないだろうと諦め、ぎしりと音を立ててベッドを降りた。
 ひやりと冷えた床板がさらに目を冴えさせて、それが汗をかいた肌に心地良い。
 そして軽く深呼吸をすると、ふと何気なく目をやった窓の外に夢で見たのと同じ赤を見つけた気がした。

「ルーク?」

 見間違いでは無いことをはっきりとしてきた思考が認識して、真夜中に宿の外に出て行く姿にガイは目を見張る。

(こんな夜中に、どこへ行くつもりだ・・・?)

 これがいつもの自分であれば、躊躇わず窓から声をかけて呼び止めていたことだろう。
 真夜中に何も告げずに出かけるなど、悪いことだと保護者として窘めたはずだったのだが。

「行かなくて良いのですか?」

「っ!」

 すぐに後を追おうともせずに窓をじっと見つめ続けていたところに、眠っていると思っていた同室者から声がかけられて飛び出しそうになる声を押し殺した。

「・・・ジェイド」

 驚かされて恨めしげに振り向けば、何故かベッドに横になっているはずの男は眼鏡をかけていて。「ほら、見失ってしまいますよ」と飄々とした声色で口端を持ち上げる。
 迷っているガイの背中を押してくれているのだろう。けれどまだ躊躇いは晴れなくて、窓枠からの手が離れない。
 彫像になったかのようにぎしりと固まっているガイを見て、呆れたような溜息がかぶせられた。

「彼も手の掛かる子供ですが、貴方も相当ですねぇ」

「何だよ、それ・・・」

 オーバーに肩を竦めて見せる冗談めかした態度に、苦笑するように息を抜こうとしたが、それは強張った頬が引き連れただけの失敗に終わってしまって。
 確かにこれでは手の掛かる子供と同じだと、自分の感情を持て余しながら、ガイはその自覚と共に深い溜息をついた。

「失敗したんだ、また」

 たぶん、ガイ達は間違ってしまったのだろう。
 眠れないとぐずる子供は一人で夜の街を彷徨い歩く。
 その背を撫でさすって、子守唄を聞かせ、寝付くまで手を握っていれば良いものを。ガイの手はもう、きっとルークが安心して身を委ねられるものではなくなってしまったのだ。
 たった一つの、隠し事が露呈したせいで。

「あいつにとっては、何より手酷い裏切りだった」

 知っていたのに。
 彼が何を恐れているのか。何を望んでいるのか。

「俺たちはあいつを通して・・・別のルークを見ていたから」

 その何よりも彼が嫌う行為を、自分たちは犯してしまった。
 屋敷に居たころも、昔の自分と比べられることにルークは酷い嫌悪感をむき出しにしていたのに。信頼していたガイたちが、自分を通してもうひとつの未来を歩んだ「ルーク」を見ていると気がついたときのショックは大きかったのだろう。
 それを自覚せずに、心の片隅で常に「消えてしまったルーク」を思っていたガイたちの過ちだ。

「まぁ、確かに彼はあれで傷ついたことでしょうね」

 ジェイドの遠慮ないはっきりとした断定に、ガイはさらに頭を垂れた。
 未来を知っているという事実を、ローレライの介入によってルークが知ってしまい、彼はガイたちに疑いを持ち始めている。
 手を振り払い、射抜くような気迫で睨みつけたその瞳は痛いほどに悲しみを映し、それが彼の失望を色濃く表していた。

「ですが私たちはそれに気づいています」

 気が付かないうちに取り返しがつかないほど壊れてしまった過去とは違い、ルークが傷ついていること、その理由を知っているでしょうとジェイドは語り、窓枠を指し示す。
 外を見下ろせば、先ほどと全く同じ場所を横切る赤い色があった。

「同じ間違いを起こしたなら、今度は対処法をも知っているということですよ」

 それを眺めながら楽しそうに笑みを深めて、ジェイドは窓へと近づくとそっとカーテンを引く。
 部屋から僅かに漏れていた明かりは遮られ、同時に外の風景も隔絶される。

「失敗など、取り返しがつかなくなってから使うべき言葉です」

「取り返し・・・」

 つくかな、と呟けば、真っ直ぐに睨み据えられて「付けなければなりません」と短い答えが返ってきた。
 ジェイドはただ甘やかすような男では無かったし、それにガイも手を引かれて歩くような子供扱いをされてはたまらない。
 ふるりと何かを振り切るように頭を振ると、寝ぼけた頭を覚ますときのように大きく深呼吸をして、気を紛らわした。

「さあ、子供2人が体を冷やして戻ってくるでしょうから」

「ああ。温かいミルクでも用意しておくさ」

 きしりとベッドから降り立って、ガイは上着を軽くかぶると部屋の扉へと向かう。
 夢で飛び起きたときにあった床との温度差は、もう殆ど感じられなくなっていた。


 * * *


 ぱたりと丁寧に閉じられた扉を見送って、ジェイドは深く溜息をつく。
 代わる代わるに魘されたり飛び起きたりと賑やかな同室者たちによって、安眠が得られるのは当分望めないようだった。
 そして、それによって叩き起こされるのが不快ではないと感じてしまう自分に純粋な驚きも感じながら。

「・・・誰かさんの影響ですかねぇ」

 朱に交わればなど、冗談ではなかったけれど。
 思いつめたような表情で宿を抜け出していった子供を思い出して、一度は顰めた顔を少しだけ緩めた。

「選べる物はひとつとは限らないんですよ、ルーク」

 他にも、大切なものがあったらダメなのだろうか。
 もう一人のルークを大切に思えば、今のルークは選ばなかったことになるというのか。
 否、だ。
 それは子供が持つ独占欲に近い。
 例えば、もうひとり兄弟が増えて愛情が傾けられることに対し、自分が愛されていないと錯覚する幼子のように。 ルークはよくあるジレンマに陥っている。

「全く・・・本当に難儀なものです」

 答えは、「どちらも同じくらい愛されている」なのだというのに。


end.

***
お久しぶりです。色々と難産な閑話でした;;
反抗期にぶつかり落ち込むガイ(母)にカウンセリング先生をするジェイド。
どれだけ愛していても、保護者たちの思いは一方通行です。
まさに親の思い子知らず。(そして逆も然り)


update 2009/04/09
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