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ブレイクタイム・ココア

「ねえ熱斗くん、これ――」

 画面の向こうに呼びかけて途中で声を途切れさせる。カタカタと忙しなく叩かれるキーボードの音に、肩を竦めて作業途中のデータを保留に戻した。こうなってしまえば暫くは周りの音なんて聞こえはしない。
 見上げるモニタの向こう側には真剣な表情で何かを考える横顔が浮かんでいる。これが宿題をしている姿ならば喜ばしいことなのだけれど、恐らく彼に限ってそんなことは無いのだろう。
 ちらりと覗き見れば、案の定そこにはバトルチップの構造らしきものが垣間見える。

「……改造チップは違法だよ」

 呟いてから、そんなツッコミは今更詮無いことかと思い直した。
 どうせ有用なものが仕上がれば、後に科学省から正式に採用されたチップが配布されるのだから。
 小学生にしてこのプログラム能力、将来が楽しみでもあり怖くもある。

「さて、熱斗くんがこの調子じゃ、どうしようかな」

 古いデータを整理していたのだけれど、捨てるにも圧縮するにも本人の確認が取れないのではしょうがない。
 空いた時間をどうするか……と考えて、不意に名案を思い付いた。

「ちょっと行ってくるね」

 どうせ聞こえないのだろうけど、ひと声かけてPETからネットワークにダイブする。行き先はすぐ隣の部屋。

「うん、充電は満タンかな」

 常にメンテナンスの行き届いた状態に愛を感じ、口元をほころばせた。




***




 カタ、と最後の文字を叩き終わって小さな背中が伸びをする。そのタイミングを見計らって持っていたマグカップを目の前に差し出した。

「お疲れ様」
「――っ、ロックマン?」

 不意打ちに驚いた顔がボクを見上げて、悪戯の成功にほくそ笑む。丸い濃茶色の瞳がくるくると光を跳ね返し、その中に映る自分の姿に満足して目を細めた。
 彼の声色には「どうして」「いつの間に」という疑問がありありと浮かんでいる。どうやらドッキリは大成功だったようだ。
 コピーロイドに乗り移り、気づかれないよう部屋に忍び込む。ちょっとしたスパイ大作戦みたいなノリは意外とドキドキするものだった。
 作業が終わる時間を狙うために持ってきたホットココアは、程よく飲み頃になっている。改めて勧めると、熱斗くんはカップを受け取り湯気の立つそれに口をつけた。

「……ありがとう」
「どういたしまして」

 頬がほんのり色づいているのは、派手に驚いてしまったことを照れているからだろう。先程までの真剣な表情から一変して子供じみた顔を見せる彼に、また悪戯心がくすぐられる。

「熱斗」
「!」

 呼び捨てると、カップを握る手がびくりと震えてココアが跳ねた。

「熱斗、この姿の時はボクのことどう呼ぶんだっけ?」
「え、あ……」

 家族としてみんなと過ごせるように。そんな願いを込めて色々な人がボクたちをバックアップしてくれている。
 まだまだコピーロイドの稼働時間は短いし、自由にいつでもというわけにはいかないけれど、ボクたちはこうして過ごせる「家族」の時間を大切にしていた。
 そんな中で、彼と交わした約束がある。

「彩斗兄さん、でしょ?」
「あ、うう」

 ボクが言うと、熱斗くんはぐるぐる天井や壁を見ながら言葉を濁す。首筋は先程以上にはっきりと朱に染まっていた。
 普段何気ない時はさらっと彩斗兄さんと呼びかける癖に、こうして改めて要求すると照れが入るのか中々言い出せないらしい。
 やがて逃げ場がないと理解したのか、そろそろと顔を上げて蚊の鳴くような声で呟いた。

「……ずるいよ、兄さん」

 潤んだ瞳に変わらず映る自分の姿を見つけた瞬間、どくんと心臓が大きく跳ねる。
 まったく、ずるいのはどっちなのか。
 フルシンクロされた時のように彼の鼓動がボクにも乗り移り、首筋からじわじわと熱が浸透してくる。ふいに抱きしめたい衝動に駆られて、誤魔化すようにボクは熱いココアを喉へと流し込んだ。



 熱々のココアに、この痺れるような甘い空気が溶けて流れてしまえば良いと願いながら。




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コメント▽
ついったでふらっと呟いた小話。

update 2015/03/14
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