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鬼火(7) ※再録


「おにいちゃん・・・!」

 喜びを露にした少女の声で、熱斗は意識を取り戻した。
 ふわふわと頼りなく漂っていると感じていた足元は、もう確かな重力を受けて体を地面に受け止めている。

「熱斗!?」

 耳元でもう一つの少女の声が響き、ぱちりと目を瞬かせた熱斗は、自分が誰かの膝の上に乗せられていることに気がつくと、「うわぁっ」と驚きのまま叫んだ。

「め、メイル?」

「心配したんだよ、熱斗!」

 慌てて起き上がれば体に鈍い痛みが走る。

「すごい痣になってるから、あまり急に動かないで」

 その言葉に思わず痛む箇所へと手を触れさせれば、その痣になっているらしい場所に触れて「いたたっ」と涙声になった。

「光くん、気がついたの!?」

 長いお下げを左右に揺らしながらパタパタと駆け寄ってきたやいとが、目の前に膝をついて心配そうに覗き込む。
 この施設の関係者である責任もあるのだろうか、友人を心配する以上に真剣なやいとの目には、僅かに涙の痕がある。

「へーき、平気だって」

 痣になっていると言っても、骨に異常がある様子も無いから痛みさえ我慢してしまえば何でもない。
 熱斗は笑いながらひらひらと手を振って無事を伝えると、メイルの手を借りゆっくりと立ち上がった。

「えーと・・・」

 何が、一体どうなったのだろう。
 見回してみれば、そこは先ほど熱斗がバトルをしていた場所だった。
 綺麗に光り輝く花畑と、広い空間。
 そして壁際にはめ込まれた銀色のパネルは無残にひび割れて黒い煙を吐き出している。
 あのパネルの爆発に巻き込まれて、吹き飛ばされたのだ。

「いけぇ、ガッツマン!」

「にいちゃ、がんばれっちゅー」

 その反対側の壁際には、大きな体を揺らしながらガッツマンにチップを送って指示を出しているデカオと、その応援をしているチサオ。

「デカオ?」

「残ったウイルスたちは、デカオくんがやっつけてくれてるわ」

 そして、よく見ればその後ろでチサオにあわせてエールを送っているのは、小さな体を精一杯伸ばしながら敵の位置を知らせるユウコだった。

「これでラストだぜ!」

 掛け声とともに、三枚のチップが立て続けにスロットへ送り込まれる。PETを通じて電脳空間からの轟音が響き、戦いの終わりを知らせた。
 熱斗とロックマンによって数をだいぶ減らされていた敵の残党たちは、ガッツマンの活躍によって完全に撃退されたのだろう。

「良かった、お兄ちゃん、心配したんだよぉ!」

 ユウコは飛びつきそうな勢いで駆けてくる。
 透けるような白い顔に、きらりと光る涙がうかんでいた。

「俺のほうこそ心配かけてごめん。ユウコちゃんが呼んでくれたお陰で、助かったよ」

 仲間たちと、そしてユウコの笑顔を見て、熱斗は自分が無事に戻って来れたのだと理解する。
 そっと手の中に握り締めていたPETに視線を落とせば、オールグリーンを示す文字が浮かび上がっていた。
 その無事を確認して、ホッと表情を緩めると、持っていたPETをホルダーへと収める。

「私、そろそろ行くね」

「もう行っちゃうんだ?」

 不意にユウコがくるりと裾を翻して回ると、別れの時間を彼らに告げて。突然の言葉に寂しさを感じて尋ねれば、肯定を示す小さな頷きが返る。

「あまり居ると、せっかくやっつけたのにまた、あれが集まってきちゃうから」

 それはもっともな理由だった。例えそれを迷惑だと思わなくても、引き寄せた悪霊たちが悪さをすれば、彼女はその小さな胸を痛めてしまう。

「ありがとう、おにいちゃん。あえて嬉しかった」

 パパのところに会いに行かなきゃ、と。
 まだ名残惜しそうな顔で笑うユウコに、熱斗は少しだけ思案して視線を泳がせると、口を開いた。

「また、次に帰って来たときも、遊ぼうな」

 はっとした顔で見返す少女に、笑顔を向ける。

「気をつけて、迷わないようにね」

 ロックマンがそう言うと、ユウコは元気の良い声で「うん!」と大きく頷いて。
 その笑顔の残像を残して、すうっと姿が薄く消えていく。

「ええええええっ!?」

 それを見たデカオが、驚きに目を見開くとぷくりと泡を吹いて腰を抜かした。
 平気そうな顔をしてウイルス退治をしているなと思えば、何のことは無い、ユウコが幽霊であると気づいていなかっただけなのだ。
 その間抜けな顔を見ていたら、いつもの現実が戻ってきたような気がして、熱斗は可笑しさに堪えきれず噴き出した。
 笑う熱斗に向けて、デカオから喧々と抗議の声が上がる。
 その声もまた、愛しい日常のひとつなのだ。
 つ、と撫でた腰のホルダーには、愛しい人の存在。
 硬質な機械の表面に過ぎないそこは、まるでお互いの手が触れ合っていた時と同じ優しい温もりを感じさせる。

「    」

 その声が、自分の名前を呼んだような気がして。
 熱斗は微笑みながら、小さな声で「兄さん」と返したのだった。


end.

***
2006年夏発行のコピー本「鬼火」から再録


update 2012/07/31
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