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鬼火(6) ※再録


 ・・・・・・。

 彼女は「怖くは無いの」と問いかけた。
 怖がるはずも無い。
 魂だけの存在、記憶だけの存在。
 それは何よりも熱斗の身近に、常にあるものなのだから。
 もしも、肉体という器を持たない存在を「幽霊」と呼ぶのならば。

(もし、そうだったら・・・兄さんも)

 電子データとして存在している、血を分けた自分の兄もそれと同じなのだから。
 自分と同じ形をした、緑の色の目が瞬く。
 その映像が記憶の中から浮かび上がって、熱斗は静かに握る掌に力を込めた。強く握れば爪が掌に食い込む痛みが広がるはず・・・なのに、何故かいまは何も感じない。

   ・・・・・・。    ・・・・・・・・・。

 ここは、どこだろう?
 最初にもたげた疑問は、空気を震わせる音ではなく、浮かべた頭の中に響いた。
 目を開けたと思った瞬間、辺りが白い色を映し出す。ゆっくりと「瞬き」を繰り返せば、何もなかった場所に次々と色がついていった。

(何が起きたんだっけ?)

 ふわふわと頼りない自分の存在。
 希薄になった自分自身を感じながら、熱斗は自分が夢を見ているのではないかと考える。
 辺りの色は風景を次第にはっきりと映し出してきて、熱斗は自分の立つ場所を見出そうと、目をこらした。

「だめ、おにいちゃん!」

 何もなかったはずの空間に、突如響き渡ったのは少女の声だ。
 しかも、知っているその声。

「ユウコ・・・ちゃん」

 パタパタと追いかける足音が付いてくる様子から、熱斗は自分が移動しているのだと自覚する。
 その瞬間に、認識したそこから足元の地面が浮かび上がった。
 さっきまで何も無かったはずの空間に、真っ直ぐに伸びる細い道筋が現れていて。
 熱斗はその道を踏みしめながら歩いていた。

「おにいちゃん、戻って、だめだよっ」

 ユウコが何度も叫びながら、後ろで声を張り上げる。
 熱斗はそれほど早い速度で歩いているのだろうか。忙しなく足音を響かせて追いかけてくる彼女の声は、けれど距離を縮めることなく、一定の距離を保ちながら響いているのだ。

「だめだよ!」

 けれど、戻ってと叫ばれても。

「・・・く」

 まるで機械のように動く足は、熱斗の意志には従わず、交互に規則正しく踏み出される。
 そしてぐいぐいと前へ引かれる腕は、何かにつかまれて引き寄せられているような感触があった。

「戻って、だめだよ、戻って!」

 悲痛に叫ぶ声が追いかけてくる。
 その声の主を振り向く自由すら、いまの熱斗には与えられていなくて、唯一動かすことのできた口が喉を震わせて声を紡ぎだした。
 止まれない、と。

「引っ張られてるんだ・・・!」

「おにいちゃん!」

 絶望の色を濃くしたユウコの悲鳴が熱斗の耳を打ち、それが事の深刻さを理解させる。
 このまま先へ進んでも良いことにはならない。
 わかっていながらも、熱斗は全く自分の意思で動かすことの出来ない足に、苛立ちを募らせた。

「・・・っ」

 その手が・・・引かれていると思っていた腕が、何かひやりとした温度を感じ取って、息を呑む。
 形を視覚することは出来なくても、それが何であるのかはわかっている。
 ユウコの周りに集まっていた、悪霊たちだ。

(引っ張られる・・・!)

 生ある者への執着か、それとも共に歩む同胞を求める行動なのか。それはわからなかったけれど、彼らが熱斗を「彼らの世界」へと引き込もうとしているのはつかまれた腕を介して理解する。

「く・・・そっ」

 触れていると自覚した場所から、じわじわと冷気が這い上がってくる様で、悪寒が背筋を走った。
 抵抗しようとつま先を睨みつけていた両目を固く閉じる。

(誰か・・・)

 誰か、なんて決まっていた。
 こんなときに浮かぶ名前は、たったひとつしか無いのだから。

「―――っ」

 このまま、引き込まれてしまえば。
 同じところに行けるのだろうか。
 ずっと一緒に、居られるのだろうか。
 瞬間、脳裏を掠めたのは、そんな心の底に凝った願いだった。

「熱斗!!」

 きっと、その強い声が自分を呼んで目を覚まさせてくれなかったら、その願いは現実になっていたのかも知れない・・・最悪の結果と共に。

「熱斗、こっちだ!」

 凛と響く、強い呼び声。
 いつもどんな闇の中でも、熱斗と共にあり、苦しい時は支えてくれる。彼の。

「さ・・・いと、兄さん・・・」

 ぴくりと、指先が震えた。
 まったく動く気配も無かった指が、自由に動く。
 そう思った瞬間、熱斗の周りの闇は波が引くように晴れていった。
 いつの間にか掴まれていた腕は、温かい手に触れられていて。

「・・・兄さん」

 それは目が覚めるような青色で。
 熱斗が顔を上げれば、真っ直ぐに自分を見ているロックマン――双子の兄、光彩斗の姿があった。
 まるで鏡をはさんだように、お互いは触れ合った手を境にして立っている。
 ちょうど生きているものと生きていないものとの狭間の世界。おそらくそこに居る熱斗と彩斗は、互いに手を伸ばして触れ合うことができたのだろう。

「彩斗兄さん」

 冷たかった腕が、温められていく。
 本来ならばあるはずの無い、彩斗の温もりがそうしているのだ。

「なんて顔してるんだ、熱斗」

 とても近くにあるはずの相手の顔が滲んで見えて。 鼻の奥がつんとして、熱斗は自分が泣く寸前の顔をしているのだろうと考えた。

「どんな顔だって言うんだよ・・・?」

 お互いの足元には、きっぱりと引かれた境界線。
 これを越えることは、許されない。
 たった一歩の越えられない線が、理解はしていてもひどく悲しかった。
 そんな熱斗に、彩斗はにこりと微笑みかける。

「ほら、酷い顔してる」

「酷いって・・・酷いなぁ、兄さん」

 頬をするりと撫でていく手のひらに優しい温もりを感じて、熱斗はそれを追いかけるように目を伏せると、零れそうになる涙をぎゅうっと堪えた。
 唇を引き結ばなければ、震える吐息が漏れてしまったかも知れない。
 涙に濡れた目で見上げれば、きっと彩斗はまた困ったように笑うのだろう。
 だから、ふるりと首を振った後は笑顔で。

「行こう」

 短く告げられたその言葉を、素直に受け入れた。
 自分はこの線を越えて行くことは出来ないし、また彩斗も線を越えてこちら側に踏み込むことは敵わないのだ。

「熱斗」

 促すように手が伸ばされる。
 それに熱斗の手を重ねれば、互いの鼓動がぴたりと合わさり、同調した。

「ボクが誘導するから、熱斗は合わせて・・・いつものシンクロを解くときみたいに体に戻れば良い」

「・・・・・・うん」

 本当はまだこうしていたい。
 けれど、お互いにあるべき場所を違えている2人だから、戻らなくてはいけないのだということも十分に理解していた。
 当たり前のように重なり合う存在。
 こんなにも近いのに同じにはなれず、そして共に生きることも出来ない。
 絶対的距離を、自覚させられる。

(ここにいるのに)

 彩斗も今この思いを感じているのか。
 それとも、彩斗の思いが熱斗に流れ込んできているのか。
 ゆっくりと戻ってくる現実の重さを感じながら、熱斗はその疑問に答えなど無いことを知っていた。
 きっとそれは、お互いが同時に抱いた想いだったのだから。


update 2012/07/30
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