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鬼火(4) ※再録


 少し開けた場所に出れば、そこはぼんやりと発光する花畑のオブジェがあり、花壇には腰掛けられそうな休憩スペースが設けられている。
 そこには妙な仕掛けもないと確認をして、熱斗はようやく腰を落ち着けた。
 その隣には、ちょこんと座るユウコの姿もある。

「はああ、けど、驚いたよ」

「えへへ、びっくりした?」

 悪戯が成功した時のような笑みを浮かべながら、ユウコは嬉しそうに足をぶらぶらと振り回す。
 その様子を眺めながら、熱斗は見上げてきた少女に向けて大きく頷いた。

「吃驚した!」

 ユウコ、という名の少女のことを、熱斗もロックマンも良く覚えている。
 あれは以前町内で行われたシティトーナメントでのこと。
 対戦相手は驚くことに小さな女の子で、彼女は熱斗の前に前触れ無く現れると「遊ぼう」と話しかけてきたのだ。
 あの時はユウコの事情を何も知らなくて、家に帰れば知り合ったばかりの彼女の父親が突然家を訪れていたことに、熱斗たちは驚いた。

「ユウコちゃんは、どうしてここに?」

 熱斗の問いに、鈴の音の様に通る声は元気に答える。その声だけを聞いていれば本当に忘れそうになるほどだけれど。

「だって夏だもん」

「あ・・・お盆だよ、熱斗くん」

「そう、お盆だから、帰って来たの」

 ぶらぶらと揺れる少女の足が、その向こう側の風景を透かして映す。
 元気に喋る姿を見ていると信じられないが、彼女はこの世に生きる存在ではなかった。

「本当は真っ直ぐにパパの所に戻るつもりだったんだけど、途中でキラキラ綺麗な遊園地が見えて、つい寄り道しちゃった」

「そうだったんだ」

 ユウコの言う「キラキラして綺麗な遊園地」は考えるまでも無い、このテーマパークのことだろう。
 遊び好きな彼女にとって、余程ここが魅力的に見えたのだろう。
 きっと時間を忘れて遊びまわっていたに違いない。それが、例の心霊現象に繋がっていた・・・というのが今回の真相では無いだろうか。

「おにいちゃんたちは、私が幽霊だって知っても驚かないんだね」

 不思議そうに呟いたユウコの言葉に、ぼんやりと少女を見つめながら考えに耽っていた熱斗は、体をぎくりと強張らせた。
 そんな微細な変化にユウコは気づくことなく、思い出した記憶を懐かしむように話を続けている。

「パパも私のこととても大切に思ってくれたけど。他の皆は私が突然消えたり現れたりすると、驚いて逃げ出しちゃうの」

 おばけ、って。怖がられちゃったんだよ。
 そう説明して顔を上げると、彼女もようやく自分の周りの空気の変化に気づいたらしい。
 小さな画面の向こうでは、ロックマンが微妙な表情で視線を泳がせている。
 その姿に、不思議そうに目を瞬かせた。

「どうしたの、おにいちゃん?」

 その言葉に、熱斗がきゅっと唇を噛み、今まで騒がしく笑い声を響かせていた場の雰囲気は沈黙へと塗り替えられる。
 その2人の突然の変貌に、ユウコは驚いたように目を見張った。
 優しいと同時に、お日様のように元気で温かい。
 ユウコの熱斗に対する印象は、こうである。
 その熱斗が見せた表情は、付き合いが短い間だったとはいえ、彼女が初めて見るものだった。

「熱斗くん」

 すると、PETからそっと囁くように名前を呼ばれる。ロックマンの声だ。
 まるで魔法が解けるようにパチリと目を瞬かせた熱斗は、次の瞬間にはもういつもの通り強い光を帯びた瞳でユウコを見下ろしていた。

「あ、ゴメン。ちょっとボーっとしてた」

「おにいちゃん・・・」

 心配そうな声で名前を呼ばれて、にこりと微笑み返す。

「ちゃんと聞いてたって。ごめんごめん」

 別に、聞いてなかったことを責めているわけでは無いのだけれど。誤魔化すように謝罪を述べれば、ユウコは熱斗にあわせて苦笑した。

「もう、仕方ないなぁ。おにいちゃんってば」

 外見は小さな少女であっても、実際は熱斗たちよりもずっと長い年月を過ごしてきたユウコは、何か触れられたくない部分に自分が触れてしまったことを察したのか。それ以上の追求はせずに小さな膝をそろえて花壇の縁に座りなおした。
 ユウコの優しさに遠慮なく助けられることにして、熱斗も気を取り直して会話を再開する。お陰で雰囲気は先ほどまでの和やかさを取り戻しつつあった。

「けれど、あれは悪戯が過ぎるだろー?」

「うんうん」

 そんな中、熱斗が最初にここへ来るきっかけとなった事件を思い出す。
 幽霊騒動。
 それはきっと、このユウコが此処で悪戯をしていたせいなのだろう。

「え、何のこと?」

 けれど、何のことを言われたのかわからない様子の少女はきょとんとした目で熱斗を見つめる。
 自分のしたことをまだ良くわかっていないのかも知れないと思って、熱斗とロックマンは顔を見合わせると、ここに来ることになった経緯を簡単に少女へ聞かせていった。

「何って、アトラクションの心霊現象だよ」

 突然現れて熱斗たちを驚かしたように、きっと最近起こっていたアトラクションの騒ぎも彼女の仕業だろうと思っていたのだ。
 ところが。

「ううん、私、知らないよ」

 寝耳に水とでも言うように少女が小首を傾げると、どうにもかみあわない互いの会話に次第に違和感が強まっていく。

「その辺りの乗り物に触ったりはしたけれど、動かしたりとかしてないもん」

 はっきりとした、否定。

「え・・・それじゃ・・・」

「他に、犯人がいるってこと?」

 すると今度はユウコの表情がみるみるうちに曇っていく。そして、震える声で小さく呟かれたのは、何故か謝罪の言葉だった。

「・・・ごめんなさい、少しゆっくりしすぎたみたい」

「ユウコちゃん・・・?」

「覚えていない? おにいちゃんたちが、私のためにしてくれたこと」

「!」

 ユウコのために、熱斗たちがしたこと。それはインターネットに現れたナビたちの残骸データ・・・悪霊ナビを消滅させて回る仕事だ。
 彼女の存在に引き寄せられるのか、ナビの幽霊がユウコの居る場所に集まってきてしまい、幾度と無くインターネットを騒がせて、彼女の父親がオフィシャルに依頼してそれを処理してもらっていた。
 あのトーナメントの日も同じで、あの時は熱斗とロックマンの手で事件を解決したのだ。

「じゃあ、今回の事件も・・・!?」

 問いかければ、こくりと小さな頷きが返される。

「また、ユウコのせいで皆に迷惑かけちゃったんだね」

 つまり、このアトラクションを乗っ取っているものの正体はウイルスのような通常のプログラムではなく、彼女が引き寄せてしまった悪霊が関わっているのだろう。
 不安そうに揺らぐ瞳は、多分彼女自身が起こしてしまった事の重大さを知ったため。

「大丈夫だって!」

 それを安心させるために、熱斗は一段と明るい声でそう言っていた。

「また、俺たちが悪いやつらをやっつけてあげるからさ」

「本当、おにいちゃん?」

 聞き返されて、自信たっぷりに熱斗は頷く。

「ボクたちに任せて、ユウコちゃん」

 続けてロックマンも肯定すれば、ユウコは嬉しそうに、やっと安心した笑みを返した。

「さ、行こうかユウコちゃん」

 立ち上がった熱斗が振り返り、座っているユウコを促す。
 まだ座ったままの少女へと手を伸ばそうとして、その手が互いに重なりあうことが無いことを思い出し踏みとどまる。
 幸いなことに、ユウコも立ち上がろうとしていたらしく、熱斗の動きを見ていなかったようで。
 そっと安心したように溜息を零して目を伏せたことも、彼女は気が付かなかった。


update 2012/07/26
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