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鬼火(1) ※再録

綺麗に引かれた境界線

  それは生きるものと、生きざるものを隔てる

                    絶対の壁。





「すげーっ、これが噂に高い新テーマパークかぁ」

 晴れた空に一段と高く響き渡った声は、綿菓子のような初夏の雲に吸い込まれて消えていく。
 アトラクションの放つ光が爛々と輝き、これで周囲が観光客で賑わっていたのならば、その叫び声もそれほど目立つことは無かったのだろう。
 けれど、稼動している乗り物にはひとつの人影も見当たらない。
 熱斗は反響して消えていく自分の声を聞きながら、気分良く全身で深呼吸をした。

「よぉし、俺が一番乗りだぜ!」

 背後から体に見合った巨大なリュックを背負った少年が、そんな熱斗の脇をすり抜けていく。

「あっデカオ、ずるいぞ!」

 早い者勝ちだと宣言をしながら既に走り出しているデカオに、熱斗は一歩遅れてスタートを切った。

「ああっ、熱斗待ってよぉ」

「にいちゃん、待ってっちゅー」

 そんな彼らの後ろを、メイルとチサオが慌てて追いかける。
 いつも通りの、変わりない日常風景。
 真夏の日差しが照りつける中、メインゲートを潜る寸前にデカオを追い越した熱斗が、拳を振り上げて勝利を宣言した。




 ことの始まりも、いつものごとく。
 前触れ無く彼らの前にチケットの束をひらめかせ、自慢のおでこを強調するように下から覗き込んだ少女は、説明も何も無しに彼らに問うたのだ。

「ねぇ、あんたたち来週の日曜日は空いてる?」

 その差し出されたチケットを確認すれば、情報の早いデカオは真っ先に「あっ」と声を上げた。

「それ秋にオープンするテーマパークの入場券じゃねぇか!」

 その言葉に、隣で眠そうな目を擦っていた熱斗も身を乗り出してくる。
 相変わらずネットワークを騒がす事件が多いためか、市民協力者として登録されているだけの熱斗に舞い込んで来る依頼も少なくない。お陰で今日は寝不足なのか、授業中にも何度か大きなあくびをしている姿をメイルは目撃していた。

「へぇー、それって確か、このあたりでは最大規模のテーマパークだって話題のやつだよな?」

 眠気が吹き飛んだらしく興味津々に尋ねてくる熱斗の反応に、やいとは満足げに微笑を深めると、もったいぶるようにゆっくりと頷く。

「我がガブゴン社が出資しているのよ」

 ひらりとその手を振れば、束になったチケットが扇のように風を起こした。
 華やかなデザインの中には、確かに彼女の言う通り綾小路家が運営していることを示すロゴが印刷されている。
 一同が感心しながらやいとに注目すれば、ニッコリと微笑んだ彼女は、首をかしげてようやく本題を告げた。

「プレオープンに皆を招待しようと思って」

 無料で招待。
 何よりも話題のテーマパークをいち早く楽しめる。
 そんな魅力的な誘いを断る理由は無い。
 ふたつ返事でそのチケットを受け取った熱斗たちは、始終満面の笑顔を崩さなかったやいとの表情の裏に潜められているものを、ついに察知することは無かったのだった。


 巨大なテーマパーク。
 その名の通り、入場ゲートの外からもその全貌を望むことは出来なかったが、中に入ってしまえばますますその広さを実感させられる。
 まるで違う国へと迷い込んでしまったかのような演出は、徹底して観覧客を外界と隔絶していた。
 プログラムに従い周囲を動き回る整備用ロボットたちは、その周囲の雰囲気に合わせてどれもファンシーなキャラクターの格好で。メイルが「可愛い!」と嬉しそうに声を上げれば丁度通りかかった一匹が立ち止まり愛想良くクルリと一回転してみせる。

「可愛いでしょう、私がデザインしたんだから」

「やいとちゃんが?」

 隣からかけられた言葉に、そのロボットと握手をしていたメイルは驚いて振り返った。
 ファンシーなキャラクターに、甘い砂糖菓子を固めたみたいな風景、確かに言われて見ればこのあたり一面がやいとの好みに統一されているような気がする。

「全部じゃないけどね。お菓子の国を模したこのあたりは、私がデザインに協力したの」

「へええー」

 得意そうに胸を張って説明をするやいとに、正直に熱斗が感嘆の声をあげると、彼女は嬉しそうに頬を染めた。天才少女と言われていても、素直な賛辞を受けると照れくさいのだろう。
 まだ小学生とはいえ、やいとは様々な方面で才能を発揮させている。ガブゴン社が行うプロジェクトのいくつかにも、こうして名を連ねさせるのはさして珍しいことではない。
 実際は、将来のガブゴン社を支える綾小路家の跡取りとして、宣伝の意味も含めているのか。時には派手すぎるとも言えるやいとの行動だが余程のことで無ければ滅多に咎められなかった。

「もうじきオープンなんだろ? こんな忙しい時期に、俺たちが遊んじゃっても大丈夫なわけ?」

「あ・・・だよな。平気なのか?」

 浮かんだ疑問をそのまま述べると、同じように思い至ったらしいデカオが心配そうに目じりを下げる。
 プレオープンの招待・・・とは言われたものの、このパークに居るのは現在熱斗たちだけのようだ。実際のプレオープンは、記者や一般客を公募してもっと大々的に行うのでは無いだろうか。
 一同の伺うような視線が集まると、やいとは小さく肩を竦めて、けれど彼らが思っていたのとは少し違った答えを返してきた。

「ま、そうなのよねぇ。実は困ったことがあって・・・」

 その切り出しに、嫌な予感がざわりと過ぎる。
 今まで彼女が関わることで、このようなパターンはあまり良い思いをした覚えが無い。はっきり言ってしまえば、どちらかというと大変な目に逢った方が多いのだ。

「お披露目を目前にして、最近この施設内で妙な事件が多発しているのよ」

「妙な事件?」

「そう」

 物憂げに頷くその仕草にあわせて、特徴的なお下げが揺れる。そして流れるような動作で彼女の視線が追った軌跡を熱斗たちもつられるように振り向いて。

「げ」

 みな一様に凍りついた。
 その先には、仰々しい飾りで雰囲気を出している・・・どう見てもホラーハウスらしき建物。看板には「ようこそ、恐怖と戦慄の館へ」という文字が綴られており、わざと古めかしく作られた門は打ち付けられた杭に引っかかるように風に揺れていた。

「そうなのよ」

 嫌な予感は、確信へと変わる。

「このホラーハウスで、数々の心霊現象がスタッフを襲っているというわけ」

 目の前に立っていた、デカオの大きな体が風に揺られる門のようにゆらりと揺れたような気がした。


update 2012/07/19
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