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Concerto3 ※再録

【そして、交差するとき】


 金色の光が自分を取り巻く中、ルークはそっと閉じていた目を開いた。
 きらきらと輝くそれは、温かくも冷たくも無く、痛みを与えるわけでもなく、ただ無数に生まれては散っていくばかりで。

(ああ、そうだ)

 最後の戦いは終わったのだと、思い出す。

(俺、ローレライを解放できたんだな)

 薄れ行く意識の中で、確かに彼の存在の声を聞いたような気がする。
 いつもは一方的に痛みばかりを与える声で、生まれてこの方迷惑しかかけられた覚えも無く・・・第七音素の純粋な結晶、意識集合体と言われたところで、ありがたみを感じることも無かったけれど。
 でも、ローレライを開放することで、確かに世界は救われたのだろう。
 ルークの大切な人たちが居るあの世界が。

(みんな、怒ってるだろうな)

 別れる間際に交わした約束の数々が次々と鮮明に思い出される。
 交わした約束は、たぶんもう守れそうに無い。
 今ならば自分の被験者が「約束」を好まない理由が判る気がした。
 守れない約束は、交わした双方の心を縛り、悲しみを長引かせる楔となる。
 きっとあの優しい仲間たちは、この先もずっと還らない自分のことを思い、悲しみ、悩み続けるのだろう。
 不用意な約束をしてしまったがために、消えてもなお彼らの心を傷つけ続けるのだ。

(ごめん・・・みんな、ごめん・・・)

 気の利いた別れの言葉でも吐けば良かったのかも知れないけれど。
 それでも、口から出たのは誤魔化しの笑いと、その場しのぎの返事ばかり。
 最後の最後まで、結局は自分の死を目の当たりにすることが怖くて、それを言葉にすることを躊躇ってしまった。

(せっかく、ロイドにも説教されたけど――活かせなかったなぁ)

 望みは最後まで心の中に閉じ込めて、ここまで持ってきてしまった。
 それを知ったら、あのロイドのことである。綺麗なこげ茶色の目を怒りに染めながら、また色々と言ってくるに違いない。
 そんな彼の声も、もう聞くことは無いのだろうけど・・・。

(・・・?)

 ふと、耳を掠めるような僅かな音の震えに、ルークは閉じかけていた目を再び開いた。
 音素が乖離して、もう実体など残っていないはずの自分が、音を振動として捉えることは無いはずだ。それを受け止めるための器官自体が無いのだから。
 けれど、確かにそれは音として、ルークに届いていた。
 きぃん、きぃん、と規則的に聞こえるそれは、鈴の音のように何度も反響して重なっていく。
 最初は微かで幻聴とも思える程度のものだったが、次第にはっきりと聞き取れるほどの大きさになると、気のせいではないと確信する。
 そして、たった今まで金色の光しか存在しなかったこの空間に、もう一つ異なる光が混ざりこんでいることに気が付いた。
 それは瞬く間に集合して一つの形を作りだす。

「諦めが早すぎるだろ、おい」

(・・・えっ)

 ルークは我が目を疑った。
 ふわりと光を帯びて浮かび上がるシルエットは。
 ゆるやかに孤を描いて落ちていく白い布地は。
 そして、ぱちりと開かれた両の目は、先ほど思い浮かべていたものと寸分違わぬ深いこげ茶色で。

(ロイド!)

「やっと見つけた、ルーク」

 少しだけ大人びたように見えるロイドの背中には何故か純白の羽が大きく広がっていて、ルークは自分の想像力の凄さに呆れてしまう。
 お迎えは天使だなんてベタなイメージはまだ良いとしても、それがあのロイドの姿とあわせて出てくるとは・・・自分はどうにかしてしまったのではないだろうか。

(ていうか、死ぬときに天使が迎えに来るって本当だったんだなぁ。・・・俺、レプリカなのに、お迎えなんて来るんだ)

 けれど、意外なほどにその白い羽はロイドに似合っているともルークは思った。
 つらつらと無駄なことを考えていると、そのまま目の前に降り立ったロイド(?)は、くすっと苦笑して「相変わらずぼーっとしるんだな、お前」と呆れた声を発してみせた。
 ――って。

「え、ロイド!?」

 本物? と思わず声に出して叫んでから、ルークはもっと驚きに目を見開く。

「――あ」

 喉を振るわせる吐息が漏れた。
 そんな馬鹿な、と心が騒ぐ。
 これは無くなったはずの感覚。無くなったはずの、自分の声。

「俺・・・声、が」

「な。だから言ったろ。諦めるなんて早いって」

「うそ・・・だろ」

「嘘じゃないだろ」

 ほら、と促されて目を向ければ、遥か下方に強い光を見つける。
 それは無数に浮かぶ光の中でもひときわ強く、美しい色をしているように思えた。

「ルークは、還りたい場所があるんだよな」

「・・・ああ」

 願っても叶うことは無いと思っていた。
 罪にまみれた自分が、願うことすらいけないことなのだと思っていた。

「還り・・・たい」

 みんなのところへ。
 あの、大好きな人たちが居る世界へ、還りたい。

「許されるなら」

 願うことが許されるのならば、
 ・・・でも、そんなことが出来るのだろうか?

「許す許さないは、誰が決めることでもないんだ」

 小さな小さな、ともすれば聞き零してしまいそうな願いだったけれど。ロイドは満足そうに笑うと、そう答えを返した。

「やっと聞けたな。お前の気持ち」

 はっと顔を上げたルークの目の前を、眩い光の刀身が過ぎっていく。
 一振りすれば、闇を切り裂き。
 一振りすれば、そこに道を切り拓いた。

「ルークがそこに居たいと思うなら、居れば良い。それを決めるのは、ルーク、お前自身なんだぜ」

 きぃん、と再び甲高い音が響く。すると今まで曖昧に漂っていた体にずしりとした重みを感じるようになり、ルークは目を見張った。
 持ち上げた自分の両手を見つめれば、それはもう透き通っては居ない。自分を取り巻く零れる光もいつの間にかなくなっている。

「俺、―――・・・」

 還っても良いのか。
 声にはしなかったその答えに、目の前に浮かぶロイドははっきりと頷いた。

「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」

「ロイド!?」

「オリジンが言ったんだけど、ここは時間も空間も無い、ハザマノセカイ? なんだってさ。だからここでこうして話してることも、実際の時間の流れには影響しないとか・・・あー、もう!」

「?」

 説明の途中で突然叫びだしたロイドに、びくりと驚き身を跳ねさせる。
 ロイドはぐしゃぐしゃと自分の癖毛をかき混ぜながらしばらく唸っていたが、やがて顔を上げると「細かい事は判んねーけど」と告げた。
 判らないのか。
 内心突っ込みたい気分になりながら、けれど詳しく聞かされたところでルーク自身理解は出来ないだろうと思い、黙って頷く。
 もう既に驚くだけ驚き通しなのだから、この際細かな部分には目を瞑っておくことにした。

「俺も良くわかんねーから、説明は省くけどさ。ルークは行きたいところに行くことが出来る。俺はそれを助けてやることが出来る。というわけでOK?」

「え、ええっ?」

「言ったろ。絶対に助けに駆けつけるからって」

 シンプルな説明は大変判りやすかった。けれど。
 その内容は決してシンプルな説明ひとつで片付くほど容易なことでは無い。
 確かにロイドは約束をしてくれた。
 けれど、その約束が果たされることは無いだろうと、ルークは思っていた。
 こうして本当に来てくれるなんて、考えても居なかったから。

「ロイド・・・っ」

「ほら、だから泣くなよ」

 相変わらず泣き虫だな、と心外なことを言われて泣き笑いのような苦笑を漏らす。
 今も頬をぬらすものなど無いというのに、ロイドはルークが泣いていると明言するのだ。

「泣いてねーっての」

 もしかして、あの大好きな仲間たちの顔を見たならば、本当に涙が零れ落ちるかも知れないけれど。
 そうこっそりと心の中に付け加えておいた。

「ったく、仕方ないなぁ、お前ってば」

「・・・ごめん・・・」

「ほら、また謝ってばかりだし」

 こつり、と額を小突かれて指摘される。
 こういうときに言わなくてはいけない言葉。
 互いの体が薄れ始めて、世界が急速に遠ざかっていく気配にルークは慌てて声を張り上げた。

「ありがとう、ロイド・・・っ!」

 こんな、嘘のような奇跡を本気で起こしてくれた、別世界の友人に。
 がさつに見えて実は凄く優しい、天使に。
 届けとばかりに、喉を震わせて、ルークは感謝の言葉を叫んでいた。




【終幕】


 遠くに崩れた栄光の大地が横たわる。
 その風景を視界の端に納めながら、足元に揺れる白い花をかきわけてゆっくりと進む。

(還ってきたんだ・・・)

 肩から流れる髪は何故か旅に出た頃と変わらぬ長さになっていて、背中を覆う真っ白なコートはひらひらと風にそよぐ。

 見つめる先には愛しい人たちの姿があり、以前よりどこか大人びたように思える風貌は時の流れを感じさせる。
 もしかして、自分のこの伸びた髪は、皆がいる時の流れに還れる証なのだろうか。
 同じ歩調で遥か前を行く赤い髪が振り向かないようにと、自分は足音を殺しゆっくりと歩いた。
 仲間達はまだ前方の人物にしか気がついていない。
 ティアがよろめくように立ち上がり、数歩歩み出た。周りの者たちも一様にアッシュを見つめていて、後ろの方に意識を向ける様子は無かった。
 アッシュには気づかれるかもと心配していたが、夢から覚めたばかりのようにおぼつかない足取りで進む背中は一度も振り向くことは無い。

(あれ?)

 ふと、前を行く背中に携えられた剣を見て、首を捻った。
 ローレライの剣は自分の腰にも下げられている。
 そもそもローレライを解放するために最期の時自分が持っていたのだから、順当に行けばそれはここらあるはずだった。
 けれど、考えてみれば一度乖離してからここに至るまで、自分が剣をどうしていたか思い出せない。

(もしかして、これってロイドの力のせいか?)

 自分が持っていたはずのローレライの剣。
 その情報を元に再構築した体だから、ローレライの剣まで複製された・・・? だとしたら、何て型破りな力なのだろう。
 世界にローレライの剣がふたつあることになってしまった。
 けどまあ良いか、と考えなおす。無ければ困るが、増えたのなら別に困ることは無いだろう。
 アッシュと自分で一本ずつ持っていれば良い。ひとつだったものが二つになれば、彼と争う理由もひとつ減るのだから。

 もう少し進むと、流石にジェイドには気づかれてしまった。彼らしくなく一瞬驚きに硬直した顔に珍しいものを見たと感じながら、こちらからもアイコンタクトを送る。
 その表情が困ったような苦笑に変わったのを見て、ほっとする。
 どうやら黙っていてくれるらしい。

 こっそり近づいて、皆を驚かしてやろう。
 吃驚させて、たちが悪いとしかられて、そしてもみくちゃにされて・・・。
 ただいま、おかえり、と言葉を交わそう。


 さあ、感動の再会まで、あと―――。


end.

***
2007年夏コミ発行コピー本「Concerto」から再録。
ファンダム2クロスオーバー、ロイド&ルークのネタでした。
初版は10冊くらいしか作らなかったんですけど、翌イベントの頒布で最後のシーンを加筆しました。
発行数少なすぎて殆どお蔵入り状態だった作品。


update 2012/06/20
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