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Concerto2 ※再録

 パチパチと火の粉がはぜる音が響く。
 野宿に慣れたルークにとってそれはさほど新鮮な音でも無かったが、じっと静かに繰り返される音を聴き続けるのは嫌いではない。
 むしろ無音の暗闇の中に置き去りにされることの方が、ルークは苦手だった。
 夜になると静まり返るバチカルの屋敷とは違って、外の世界はいつも何かの音に溢れている。
 一日の終わりを告げる暗く沈んた空を木々の間から垣間見ながら、ルークはじっと膝をかかえて目をふせた。
 はぐれた仲間たちと合流できるのは、いつになるのだろうか。
 自分よりずっとしっかりした皆のことだから、きっと無事であるとは信じているのだけれど。

「明日には元の世界に戻れるかな」

 ジェイドに会えればここがどんな場所であるのかきっと判るだろう。もしそれが判らなかったとしても、どうするべきかの指針は見つかるはずだ。
 自分ひとりで考えていても判らないことばかりだけれど、仲間たちが居ればきっと何とかなる。
 そして、ルーク自身も何とかしようと頑張ることが出来る。

(駄目だな。結局俺はみんなに頼ってばかりで、何も―――)

 判らない答えをジェイドに期待したり。
 挫けそうになる心を、仲間たちの存在で支えてもらっていたり。
 何をするにも仲間を頼ろうとしている考えに気づき、ルークはそんな自分の弱さに自嘲する。

(ああ、でも・・・だから)

 目を伏せればすぐに思い浮かぶ大切な人たち。
 7年を生きたルークにとって、知り合いと呼べる人間はそれほど多くは無い。
 その一人一人を思い浮かべて、大切にその名を記憶に刻んでいく。
 その人たちのために、きっと自分は消えていくのだ。
 それならばこの一生も悪くないものだったと思えて、ルークは吐息と共に笑みを浮かべた。
 そしてゆっくりと目を開くと――。

「ルーク」

 ぱきり。
 小枝を踏みしだく音が静寂を破り、短い思考の時間は終わりを告げる。
 焚き火に照らされて現れたのは先に眠ったはずのロイドだった。
 口に出していたわけでもないのに、思考を覗き見されたような気がしてルークはわけも無く焦りを感じてしまう。
 それを誤魔化すようにわざと明るい表情を作ると、隣に立つロイドへ声を投げかけた。

「なんだよ、まだ交代には早いだろ?」

 それとも枕が変わると眠れないとか言うのかよ、と茶化すように言えば、ロイドも同じようにへらりと笑みを浮かべて「まあまあ、いーじゃん」と答える。
 そして、そのままルークの隣に腰を下ろした。
 無遠慮に近づいてくるくせに、心地よく安心できる雰囲気をロイドは作ってくれる。
 火山で交わした言葉を思い出し、ルークは喜びから口元を緩めた。
 無条件に自分をあんな風に受け入れてくれたのは、彼が初めてだったから。

(もっと早く、会いたかったな)

 あと僅かしかこの世に存在していられない自分が彼と過ごせる時間はきっと少なく、寂しさを感じずにはいられない。
 どちらにしても偶発的に飛ばされたこの世界で出会った自分たちは、同じ世界で過ごすことなど出来なかったのだろうけれど。

「な、ルーク」

 また一人思考の海に沈んでいたルークはだから、少し遠慮がちにかけられた声がロイドのものであることに一瞬気づけなかった。

「なんだよ?」

 全くもって彼らしく無い。
 短い時間だが、このロイドという青年はもっとはっきりと物を話す人間であることをルークは知っていた。だからこそ感じた違和感だった。
 目を上げると、声と同じく真面目な表情で向かう目とぶつかる。
 嘘を許さない目だ、とルークは感じた。
 ごまかしの言葉を並べ、慣れてしまった嘘の笑みを貼り付けても、この目には全て見通されてしまうような気がしてくる。

「さっきさ、言ってただろ。この世界に来てから調子が良いんだって」

「あ・・・ああ」

 尋ねられた内容は事実だったので、戸惑いながらも頷き返す。
 けれど、続いた次の言葉にぐっと息が詰まった。

「ルークってさ、ここに来る前・・・どっか、体でも悪くしてたのか?」

「えっ」

 心臓が煩いぐらいに騒いでいる。
 疲れも何も感じなかったはずの体が、まるで何かに打ち抜かれたような衝撃を受け、全身が強張った。
 それはたぶん、体ではなく心が受けた衝撃だったからだろう。

「なん・・・で」

「やっぱ、そうなのか?」

 動揺するルークに構わず鼓膜に響く、ロイドの確信したような声。
 なんだ、なんでなんだ。
 どうしてばれるんだよ。どうして。
 並べる疑問は意味無く思考を押し流し、混乱でぐしゃぐしゃになった感情ではまともな返事も思いつかない。
 ただ魚のようにぱくぱくと口を開いては閉じ、ルークは目の前の人物を凝視した。
 ほんの僅かな時間、一緒に居ただけだったのに。ルークの事情など、知るはずも無い彼なのに。

(暴くな・・・!)

 暴かないで。
 あともう少しで良いんだ。
 最後まで、隠し通せれば。
 ああ―――・・・どうして、彼なのだろうか。

「ルーク?」

「・・・っ」

 答えることは出来なかった。
 彼の問いを否定すれば良いことなのに。
 いつものように「大丈夫だ」と笑って誤魔化せば良いことなのに。
 いつもしているはずのことが、彼の前だと出来なくなる。

「ルーク、お前泣いてんのか?」

「っ、泣いてなんか、ねえだろ」

 頬が濡れる感触は無かったので、即座にそれを否定した。けれど乱れる呼吸はまるで泣いているときのようなそれで、詰まったように響いた声は、焚き火の頼りない明かりだけではどれほどの信用が置けただろうか。

「じゃあ、なんでそんな苦しそうにするんだよ」

「別に、苦しく・・・なんてっ」

「だから」

 ふう、と深い溜息が響く。
 それだけのことなのに体がびくりと震えてしまうのは、未だにショックが抜けきっていないせいだろう。
 ロイドは何が言いたいのだろうか。
 必死にこれまで隠してきた秘密を無遠慮に暴き立てられ、理不尽な憤りがふつふつと湧き上がってくる。
 返す視線にその僅かな怒りが篭っていたらしく、視線を受け止めたロイドの目が僅かに揺らめいた。
 真っ直ぐに向けられていた視線が外されたことで、ルークはほっと肩に入れた力を弱める。

「俺の、父さんが・・・さ」

 一言紡ぎ、また何かを躊躇うように言葉が止まる。

「ロイド?」

 訝るように呼びかければ、大きな茶色い瞳が真っ直ぐに向き直り、再びルークを捕らえた。

「この世界に飛ばされたとき、お前と同じこと言ってたんだ」

「・・・」

 同じこと。
 短い言葉には、それが何を指し示すのかは含まれて居なかった。
 けれど、ロイドが先ほど自分に問うたことを思えばおのずと答えも知れてくる。

「それって――」

 答えは何となく予想できていたが、思わずルークはそれを問い返していた。
 もしもここで彼の言葉を聞き流し、黙していれば、続く言葉は無くなっていたかも知れないのに。
 自分も答えをうやむやにすることが出来たかも知れなかったのに。
 ルークは聞き返した。
 会話を続けた理由は、心のどこかで彼には聞いてほしいと思っていたからなのかも知れない。
 心配そうに向けられる仲間たちの目を知らないふりをして、ただ毎日じっと沈黙を守り続けて。
 自分の中に降り積もる秘密と重ねる嘘に、もう心は溺れそうになっていたから。

「ちょっとわけありなんだけどさ。・・・俺の父さん、が、ここに来る直前に死ぬかもしれない無茶をやって、俺のためにオリジンの封印を解いてくれた」

 オリジン、という聞きなれない言葉があったが、ルークは黙ってロイドの言葉を聞き続ける。
 封印を解くということは、ローレライの開放のようなものだろうか。
 彼の言葉から推察するに、それは危険な行為であることは理解できた。

「それで動けなくなってもおかしくない状態だったんだけど・・・その直後にこの世界に飛ばされて、そしたら普通に動いたり出来てて、体は大丈夫かって聞いたら」

 お前と同じ言葉が返ってきたんだ。
 そう言って、ロイドの言葉はいったん途切れた。

「・・・・・・」

 同じだ、とルークは思う。
 やはりこの世界は特殊なのだろう。
 乖離している体が何の問題も無く感じられたり、ロイドが言うように瀕死の状態に陥りかけた人物がピンピンしていたり。
 そんなことがまかり通ってしまう場所。

「俺の勘違いかも知れないんだけどさ。でも、さっきルークがああ言ったときの目が・・・父さんの表情と重なって見えて、それで――」

 ロイドの表情は不安に揺れていた。
 ほんの少し前に会ったばかりの・・・僅かな時間を共に過ごしただけのルークのために、彼は心から心配してくれているのだ。
 それが感じられたから、そして、近く訪れるだろう別れを感じていたからこそ、自然とルークの口からは言葉が零れ落ち居ていた。

「多分、ロイドの想像は当たってると思う」

「ルーク・・・!」

 はっきりと肯定することはやはり怖くて、曖昧な言葉で返したけれど、ロイドには十分意味が伝わったようだった。

「くそ、どうして・・・っ」

 押し殺すように吐き出された声はルークを責めるものではなかったけれど、まるで突き刺さるような鋭さがあった。

「ロイド、このこと・・・さ、みんなには内緒にしてるんだ。だから」

 秘密にしていて欲しい。
 わざわざ人に言いふらすようなタイプでは無いと思ったけれど、一応繰り返してきた願いを伝える。

(本当に俺、嘘が下手なんだなぁ)

 ジェイドにばれて、うっかりとミュウに立ち聞きされ、ティアに伝わって――。
 これ以上皆に知られてしまったら、もう秘密は秘密といえなくなってしまう。

「どうしてだよ」

「え・・・」

「何で、秘密になんかしてるんだよ!!」

 強い言葉を叩きつけるようにぶつけられ、ルークは戸惑いロイドを見上げた。
 何か彼を怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか。もしかして自分では気づかないうちにまた馬鹿なことをしたのかも知れない。

「ごめん、ロイド・・・俺・・・」

「ルークが謝ることじゃない!」

 ぴしゃりと言い放つ強さに、体が強張る。
 その様子に気づいたロイドは、とたんに言葉を飲み込み、眉を下げた。

「あ・・・悪い。興奮しちまって。でもさ、ルークが隠してて、後からそれを知ったらお前の仲間たちはきっと傷つくと思うんだ」

「・・・・・・」

 みんな・・・は、きっと悲しんでくれるのだと思う。
 けれどそれはきっと、ルークが事実を打ち明けても、打ち明けなくても同じことだろう。
 失う痛みには変わりない。
 そう思い首を振ると、ロイドは悲しそうな顔でこちらを見つめていた。
 同じ顔を、あの大切な人たちにさせることになると想像しただけでこんなにも胸が苦しくなるというのに。
 事実それを打ち明けることになったら、乖離するまえに自分の心臓は止まってしまうのではないかと、鈍い痛みを放つ胸をそっと抑える。

「けど、話せば何か変わるかも知れないだろ? ルークの体が良くなる方法だって、皆で考えれば見つかるかも知れない」

 必死に続けるロイドの優しさを嬉しく思いながら、けれどルークはそれも否定するように首を横へと往復させた。
 医者自ら・・・そして、フォミクリーの考案者自らが、絶望的と下した診断結果は、変わることは無いだろうから。
 このまま全ての決着をつけて、自分は成すべき事を成して音素へと還る。
 奪っていたものも全て被験者のアッシュのもとへ返されるだろう。
 それがきっと、罪深い生を持つ自分に出来る精一杯なのだ。

(ああ、でも――)

 ロイドなら、許してくれるだろうか。
 こんな紛い物の命が存在しているということを。
 出会って間もない自分にこんなにも情を傾けてくれる、優しい彼だったら・・・。

「なあ、ロイド――。俺さ、まだここに居ても良いのかな?」

 きっと馬鹿な質問だったと思う。
 こちらの事情も知らないロイドには、訳のわからない問いかけだったに違いない。それでも、ただ答えが欲しくてルークは問いかけた。
 被験者の代わりとして生まれ、かりそめの場所を与えられ、生きてきた自分は。
 レプリカは何処にいけば良いのだろうか。
 皆は今の自分を受け入れてくれているみたいだけれど。一度は許されることの無い罪に染まった両手で、他の何をつかめるというのか。
 与えられた居場所は、世界にたった一つ。「ルーク」という人物に与えられたもので。それは被験者であるアッシュに返されるべきものだ。
 ならば存在を返したあと、ここにいる「自分」はどうなるのだろうか――と。
 少しの沈黙の後。

「ルークが居たいと思うなら、居れば良いんだ」

 返された答えはシンプルなものだった。
 ぱちりと目を瞬かせて、きっと間抜けな顔をしているだろう状態のまま、ロイドを見つめ返す。

「居場所なんて、誰かに許してもらうものじゃないだろ」

「そ・・・れは」

 居場所は一方的に与えられるものだった。
 そして、それも元々は被験者のもので。
 だからルークにとって「誰か」に与えられない自分の居場所など、考えたことも無かった。

「もし、その場所が他の奴のものだったとしたら?」

「そんなの、一緒に居れば良いだけじゃないか」

 まるで簡単なパズルのように答えを告げるロイド。
 そんな夢のようなこと、叶うはずも無いのだけれど。
 それでも、本当にそうなれれば良いのに・・・と思ってしまう。

「そう・・・出来たら良いな」

「出来るって」

 ロイドという青年は本当に不思議な人間だ。
 叶うはずも無い言葉も、彼が言うとまるで本当になってしまいそうな気になってくる。

「もし、それが難しいんだったら、俺も一緒に説得してやるからさ」

「ロイドが?」

「そうすれば、絶対何とかなるって!」

 あの瞬間湯沸かし器のような被験者を説得するのは、きっと相当に骨が折れることであるに違いない。
 顔を真っ赤にして怒るに違いないアッシュの姿を想像して、思わず噴出しそうになる。

「だから、困った時にはちゃんと口に出して、伝えた方が良いぜ」

「・・・・・・」

 歯を見せて笑うロイドに、肯定も否定もルークは返さなかった。
 けれど、もしかして。
 本当に彼が傍に居たとしたら、自分は言っていたかも知れない。


 叶うはずも無い望みを、声に出して。


update 2012/06/19
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