スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


update --/--/--
backトップ > スポンサー広告 > 世界に回帰する(番外編4)※再録 *
世界に回帰する(番外編4)※再録

 四葉のクローバーを見つけると、幸せになれる。
 そんな誰もが知っている迷信を面白半分に彼に聞かせたのが間違いだったのだろうか。

「ねー、まだ探すのぉ?」

 一面に白と緑のコントラストが広がる中で、ひときわ鮮やかな朱色が目に付いた。
 その後ろ頭が揺らめくたびに襟足にかかった尻尾のような髪が左右に振れる。仲間の少女が見たら顔を真っ赤にして喜ぶだろう微笑ましい光景だが、アニスは今の心境を表すように深々とした溜息を零し、頭を垂れた。

「ねー、ルークってば。もう!」

 一心に地面へと注がれている青年の意識を何とかしてこちらに引き戻せないものかと、何度目かになる呼びかけを行う。けれど、相手は目の前のことに夢中らしく気づく様子はなくて。

「だああああっ、見つかんねーっ!」

「そんな簡単に見つかるわけないじゃん」

 ついに辛抱がキレたのか頭を掻き毟りつつ天に向かって吼えた姿に、一人冷静に呟き返した。

「くっそー、これも違うか」

「はああ。あんな話するんじゃなかったかな・・・」

 そう、この何処までもすがすがしい晴天の空の下。何故かアニスはルークと一緒に四葉を探している。
 しゃがみこんで熱心に草むらをかき分ける背中を半ば呆れながら眺めて、すっかり日の高くなった空を仰ぎ、アニスはため息をついた。
 以前までのルークは、外見の年に相応な態度を求められ続け、本来持つ子供らしい好奇心を無理やり押さえていた状態だったのだろうと思う。
 知らないことを恥と教えられ、周囲の大人たちに合わせるために、精一杯の虚勢を張っていた。
 そんな頑なだった態度が解けてきたのは、いつごろからだっただろうか。
 旅をしていくうちに少しずつ、ルークは仲間たちに歩み寄るようになってきて。
 周囲が自分の言葉にこたえてくれると知るや、今まで抑えてきた彼の好奇心は大いに発揮されるようになった。
 ・・・が、興味が尽きないのは、時折困りものでもある。
 どういうことかと言うと、子供の飽くなき探究心は、道端に生える草花にまで向けられたのだ。

「みゅううう、見つからないですのー!」

 少し離れた場所から、間の抜けた声が尾を引いて風に流れていった。
 白い花と花の間から僅かに見え隠れする青い毛玉は、右へ揺れたり左へ揺れたり、先ほどから忙しそうに花の中を走り回っている。
 色とりどりの花は誰もが名を知っているような、珍しくも無いものばかりだった。その名を尋ねられたのは、買い物当番を終えた帰り道でのこと。
 荷物運びを手伝ってくれると申し出たルークを連れて町に出たまでは、いつもある光景のひとつだったのだけれど。
 その帰り道でルークが指差したのは、ありふれた雑草だった。
 貴族のお屋敷では、雑草など目にする機会も無かったのだろう。そう思いながら、アニスはその花の名前とそれにまつわる色々な話をルークに聞かせてやったのだ。
 ――ごく僅かに混ざっている四つ葉を見つけられた者は、幸せになれる、という御伽噺を。

「あのね、四葉ってのはすごく珍しいから、見つけられたらラッキーって言われてるんだよ? だからそんなに簡単に見つけられるわけないじゃん」

「でも、見つけた人が居るからそんな風に言われてるんだろ?」

「う・・・ま、まあそうだけどさ」

「こうなったら、意地でも見つけてやるっつーの!」

 こうなると梃子でも動きそうにない。
 一見素直なように見えて、ルークはかなり強情なのだということを知っているアニスは、諦めたように再度溜息を零した。
 日が暮れるまで帰れればそれで良いか、と。まだ高い陽の位置を確かめ考える。
 子供の我侭に付き合わされたとは思うが、それでもアニスはこうやってルークと過ごす時間が嫌いではなかった。
 たった7年。
 アニスの半分ほどしか生きていないというのに、言われなければ周囲の人間は彼を「外見より少し子供っぽい青年」としか認識しないことだろう。
 それがどれほど凄いことであるのか、最近になってようやく判るようになってきた。
 だから、こうして我侭を言って甘えてくれることに呆れつつも安心する自分がいることも自覚はしていた。

「あったぁー!」

 はっと気が付くと、摘み取ったクローバーを高々と掲げて喜ぶルークの姿があった。
 その手の中にある葉は、四枚に分かれている。

「やったー! へへ、ほらみろ見つかったじゃねーか」

 にかっと笑った表情は屈託無く翳りの無いもので、その笑顔を見ていると嬉しいと同時に、心の奥の何かがきゅっと掴まれたような痛みを感じる。

「あはは、良かったぁ。ここまでつき合わされたアニスちゃんの苦労が浮かばれるよ」

 それを顔には出さずに、アニスは同じように笑い返した。
 見慣れない、ルークの無邪気な笑顔。
 アニスの記憶の中でルークはいつも寂しそうな笑みを浮かべていた。
 初めて会った頃は我侭を言ったり周囲にあたり散らす姿しか見ていなかったし、アニス自身もルークを玉の輿を狙うカモくらいにしか見ていなかった。
 アニスがルークを仲間として見るようになった頃には、彼は傷ついたような顔で俯き、諦めたような笑顔を浮かべるようになっていた。
 こんな風に明るく心を許す姿を、かつての彼に見たことは無かったのだ。

「ほら、アニス」

「へ?」

 ぽん、と差し出されたものを勢いのまま受け取って。その手の中に納まった小さな緑を見て目を丸くする。
 何故ならそれは、あんなにまで必死になって彼が探してやっと見つけた、四葉のクローバーだったから。

「なに、なんで?」

 突然のことに混乱して動けずにいると、焦れたのかルークは半ば強引にそれをアニスの手に握らせてしまう。
 そして、なんでもないような顔をして。

「いいんだよ、元々アニスにやるつもりで探してたんだから」

 そう、言った。

「・・・は」

「お、もう一個! すげー、今度はすぐ見つけたぜ!」

 ぽかんと口を開けたまま立ち尽くすアニスの前で、ルークが足元の草むらからもう一枚の四葉を見つけ摘みあげる。

「これは、ティアの分な」

「ちょ・・・っ」

 何本探すつもりなの、とか。
 どうしてせっかく見つけたのに人にあげちゃうの、とか。
 アニスの中でぐるぐると色々な考えが渦巻く。

「ルークが欲しかったんでしょ!?」

 笑顔で四葉のクローバーを差し出されることに恐怖を感じて、気づけば大声をあげていた。

「アニス?」

「あんたが・・・っ、欲しいから探してたんでしょ!」

 群生する緑の中で、希少な四枚の葉。
 幸福を呼ぶそれを彼が欲しがったのだから、自分は手伝おうと思った。
 幸福の印を手に握り喜ぶ彼の姿が見たかったのだ。
 なのに。

「どうしてあげちゃうの。何で、自分のものにしないの・・・そんな、みんなの分なんて探して・・・!」

 アニスにあげて、ティアにあげて、みんなにあげて。

「そんなんじゃ・・・」

 ――ルークの分が、なくなっちゃう。

 怖かった。また何もかも他人に譲り、再び彼を失ってしまうかも知れないと思うと。
 もっと我侭に、自分のことを考えて生きてほしいと願っているのに、相変わらず人のことばかりを考える姿に理不尽だと思うが怒りがこみ上げる。

「大丈夫だって」

「何が、大丈夫だって言うのよ・・・っ」

 大丈夫、大丈夫と言い続けて、結局消えてしまった青年のことを思い出す。
 何も知らないから、そんな風に軽く言えるのだ。大丈夫なんて、残酷な嘘を。

「だって、ほら」

「・・・あっ」

 けれど、そう言って目の前にずいと差し出された何かは。
 焦点を結んだ目が捉えたのは、見慣れた彼の手袋の色で。広げた手の上には、いつの間に見つけたのか沢山の四葉。
 驚いて音がする程の勢いで顔を上げると、得意げな笑顔のルークと目が合う。

「ちゃんと俺の分もあるから、さ」

 当たり前だろ。
 そう言われて、涙がこぼれそうな喜びを感じた。
 与えるだけではなく、自分にも得ようとする姿に。
 そうあって欲しかったと願った、彼の姿に。

「・・・へへっ、そうだね」

 欺瞞だいうのはわかっていた。一度彼を失った事実は決して覆らない。
 けれど、贖罪のためだけではなく、目の前の子供が幸せであればいいと思う気持ちにも偽りはなくて。

「ありがと、ルークっ」

「おう!」

 ならば自分はこの四つ葉のように、たくさんの幸せを見つけ出せるように頑張ろう。そう思った。
 誰とも奪い合わずに済む、全員分の幸福のために。


end.

***
2009年春発行のペーパーから再録

update 2012/06/14
backトップ > テイルズオブジアビス > 逆行パラレル > 世界に回帰する(番外編4)※再録 *

since 2006 Sonatine-ソナチネ- Powered by FC2 Blog
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。