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世界に回帰する(番外編2)※再録

「俺のレプリカが、行儀作法もままならねぇのかっ」

 とある町での、とある席で。
 久々の屋根がある食事を和やかに過ごそうとしていた一同は、やたらと大きく響くその声に顔を上げた。
 肩で息をして興奮気味な様子の青年と、向かいで口にフォークを咥えたまま呆けている同じ顔の青年。いや、特徴をあげるならば片方は眉間に深い皺が刻まれているため、似ているはずの顔は瓜二つとは言い難い雰囲気だ。

「フォークは咥えるな!」

 その様子に再び怒号すると、矛先に居た人物は自覚があるのか無いのか、ぽろりと咥えたフォークを落とす。

「まあまあ、落ち着けって。一応ここは公共の場だぞ」

「うるせぇッ」

 人気が無い時間であるのが幸いだが、それでも宿屋の主人が先ほどからチラチラ視線を送っていて、その気配を背中に感じているガイは気が気ではない。
 騒ぎを収めようと仲裁に入ったのだが、アッシュの激昂はそう簡単には収まらないようで、逆にいっそう大きな声で怒鳴りつけられてしまった。

「何だよアッシュ。別に食べ方なんてどうでも良いだろ」

「ル、ルークもっ」

 しかもルークはルークで火に油を注ぐような返事をして、益々アッシュの眉間の皺を深くする。
 確かにアッシュの言う通り、ルークの食べ方はとても王族として学んだ者がするそれではない。
 とは言え、普通の基準から見てとんでもなく汚い食べ方でも無かったのだが。アッシュからしてみれば、貴族として教育されていたはずのルークがテーブルマナーも侭ならない事が許せないのだろう。
 それはつまり、屋敷でルークが己の代わりに周囲に見せていた姿に違いなかったから。

「冗談じゃねぇぞ、ガイ、どういう教育をしてたんだ」

 その怒りの矛先は、そのまま教育係であるガイへと向けられる。

「おい、アッシュ! どうしてそこでガイなんだよ?」

「お前に教育をしたのはこいつだろう。ならば責任はこいつにあるってことだ」

「ガイは何も悪くねえ!」

「は、どうだか」

 教育は一人から与えられたものではない。それでも、一番強い影響を与えた人物がガイなのは確かだった。
 それでもルークは自分の悪い部分を指してガイを貶められるのは耐えられず、初めて声を荒げる。

「俺だってそれぐらいのこと簡単に・・・」

「面白ぇ、ならば納得させてみろよ」

 ルーク、アッシュ。
 オロオロとうろたえながら名前を呼ぶ声も、頭に血が上った人間には蚊の羽音ほどにも聞こえないのだろう。
 ガイのために怒ってくれたのだという事実は嬉しくても、ますます白熱しそうな争いに、食べたばかりの胃が悲鳴を上げそうだと胸を押さえる。
 音素ではない何かの力を目視することが可能であったならば、いまテーブルを挟んで2人の間にはバチバチと音を立てる火花が見えたに違いない。
 そうして挑むような視線を受け止め、ルークは背筋を伸ばしてゆっくりと食器へ手を伸ばしたのだった。




 カチャリと静かな音を立てて、ナイフはテーブルへと伏せられる。
 息を潜めてそれを見守っていた者たちは、食事の終わりを告げる合図にほっと息を吐き出した。
 たかが食事の席。それほど緊張するのは馬鹿らしくも思えたが、まるで抜き身の剣で対峙しているかのような緊張感にアニスは思わず背のぬいぐるみを手繰り寄せる。

「どうだ!」

「・・・ふん、やれば出来るじゃねぇか」

 洗練された指先の動き。
 その最後までを見届けて、アッシュは鼻じろんだ。
 何も知らぬ幼子だったとは言え、7年もの間をファブレの子として過ごしてきたのだ。その割にルークの作法はあまりにも粗野で、違和感を覚えずには居られなかった。
 その違和感は当たっていたらしく、改めて見せられたテーブルマナーは何処に出ても恥じることの無いものだ。

「驚いたわ」

「ルークも一通りの行儀作法は学んでますもの」

「まあ、当然だな」

 感嘆の声を漏らすティアにナタリアが応じて、それにガイも同意する。
 今までの振る舞いを思えば意外だと思えるルークの一面も、長年共に過ごしていた幼馴染にとっては当たり前のことなのだろう。
 そしてナタリアは、そのまま視線を対面のアッシュに向けるとにっこりと微笑みかけた。

「アッシュ、どうかお掛けになって。そんなに注目されては折角のスープが味もわからなくなりそうですわ」

 そして示すようにアッシュの席に置かれた、冷め切っているスープを示せば、途端に赤面した青年が声も無く身を硬くする。
 それでも怒鳴り返さなかったのは、相手が幼少よりの想い人であったためか。素直に椅子へ腰を下ろしたアッシュにクスクスと声をあげてナタリアが笑っても、壁を震わせるような怒声は飛んでこなかった。

「へー、そうしてるとルークも本当のお坊ちゃんに見えるじゃない」

 格好良いよ、と珍しくアニスも手放しで褒める。からかうわけでもなく、純粋に感動を表すその言葉に、本当に他意は無かったのだ。
 けれどそれを受けたルークは途端にサッと顔色を変えて。

「ごちそうさまっ」

 がちゃんと食器を鳴らして立ち上がる。
 その行動に一同は驚いて動きを止め、彼を見上げた。

「ルーク?」

 何事かと驚いた数名が声をかけようとしたのだが、振り切るようにルークは早口で退出を告げ、宿の階段を駆け上がっていってしまう。

「ティア、追いかけなくて良いよ」

「でも、ガイ・・・」

 突然の出来事に、追おうとした動きはガイにさえぎられた。抗議するように見返せばガイは困ったように笑い返す。

「少しそっとしてやってくれないか。時間が経ったら、俺が行くから」

「どうしちゃったわけ、ルークってば」

 アニスも首を傾げて上へと伸びる階段を見つめる。彼女の一言で起きた変化だからこそ、余計に気にかかるのだろう。そして原因は確かにアニスの放った一言であった。

「多分、少し思い出しただけだから」

 テーブルに置き去りにされた食器が、鈍い銀色の光を跳ね返す。安物と一目でわかるそれは、屋敷で使用していた本物の銀とは全く違う輝きを持っていたが、それでもルークには同じものに思えたのだろうか。
 ファブレ家の息子としてふさわしくなるようにと教育されてきたルークは、自分が「ルーク」――つまりアッシュとして扱われることを酷く嫌っていた。
 何時だったかルークは、ガイに縋り叫んだことがある。
 自分が自分ではなくなるような恐怖があるのだと。

「前に話したことがあるだろ。あいつの態度はファブレ家のものとしての役割に対する反発なんだって」

 まだ自己の確立が出来ていない子供にとって、周囲の戸惑いや揺らぎは恐ろしいものでしかなかったのに。
 周囲の大人たちは、あまりにも配慮に欠けていたのだ。

「最初のうちはあいつも真面目に勉強してたんだぜ?」

「私が会えるようになった頃には、もう家庭教師たちから逃げ回っていましたわね」

「ああー・・・ナタリアが来るようになった頃は、丁度なぁ」

「まるで反抗期のようでしたもの」

 歪んだ環境に反発した子供は、やはり歪んだ表現方法しか返すことが出来ず、ルークはそれ以来あの様な粗暴な振る舞いをわざととるようになったのだった。
 わざと貴族らしくない行動を取り、反抗することで自分を見て欲しいと全身で訴える。
 まさに、それは反抗期と呼ぶそれなのだろう。

「あ・・・あたし」

「アニスが悪いわけじゃない」

 ガイは顔色を変えたアニスに笑いかける。

「ルークも怒ってるわけじゃないから、安心しろよ」

 慌てて席を立とうとした少女を制して、代わりにガイは席を立った。そろそろ落ち着きを取り戻した子供が、追ってこない使用人を待って拗ねている頃だろうから、と。
 多分ルークはアニスを責めたりしない。
 彼が求めるのは謝罪の言葉などではないのだ。

「じゃあ、拗ねた子供を迎えに行ってきますか」

 長話をしたせいで余計に機嫌を悪くしているだろう子供に、最初にかける言葉を考えながら、階段を上る。
 自然と浮かぶ笑みは、機嫌を直した彼の最初の笑顔を独り占めに出来る優越感だろうか。
 不安な顔で自分を迎えに来てくれる手を待っている、大切な子供のために。ガイは僅かにその足を速めた。


end.

***
2007年赤毛オンリー発行のペーパーから再録

update 2012/06/13
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