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世界に回帰する(番外編1)※再録

「ルーク、ちょっと買出しに行ってきてくれない?」

「買出しぃー?」

 声をかけるなり、返ってきたのは嫌々という雰囲気の声色。その溜息交じりの反応に、ティアは眉をキッと吊り上げた。腰に、手をあててベッドに座る青年を見下ろす。

「また、面倒がって。あなたはもうちょっと色んなことを知った方が良いのだと、言われたでしょう」
 少々きついと思われる調子で嗜めれば、だるそうな姿勢で座っていた相手はびくりと肩を竦めて跳ね起きた。

「わ、わかってるよ」

 慌てて頷きながらも、赤らめた頬が膨らんでいるのは叱られたことに対して拗ねているのか。
 その仕草が子供らしく、可愛いと思わず呟いてしまいそうだったが、ティアはぐっと衝動を堪えて下がりそうな眉に力を込める。
 甘やかすことは幾らでも出来るけれど。
 でも、それだけでは人は正しく成長できない。

「これがリストね。買い方は、もう判るでしょう?」

 半ば押し付けるように、買い物のリストを書き込んだメモを渡して、もう片方の手には必要な分よりも少しだけ多い銅貨を入れた財布を握らせる。

「子ども扱いするなっつーの!」

 まるで子供を送り出す母親のような言われ方をして、過保護なシュザンヌを思い出したのか、叫ぶように言い返してルークはパッと踵を返して部屋を飛び出した。

「行ってきますっ」

 それでも妙なところは礼儀正しく、覚えたばかりの挨拶を残しいくのは微笑ましい。

「いってらっしゃい」

 堪えきれずクスクスと笑い出しながら、ティアは駆け出していく後姿の短くなった赤い髪に、懐かしむような視線を向けて瞳を揺らした。





 何でも一人でやってみたい。
 それは確かに自分が抱えていた思いだった。

「うー・・・次はどっちだ・・・」

 きょろきょろと辺りを見回して、買出しリストに書かれている品物が扱われていそうな店を探す。
 頭を振ればぱさぱさと首筋を撫でる毛先と、その慣れない軽さに、ルークはふと顔を顰めた。

「やっぱ、妙な感じだよなぁ」

 勢いで切り落としてしまった髪だったけれど、生まれてからずっと長く伸ばして生活してきたルークにとって、それは違和感ばかりを与えている。
 ガイに綺麗に揃えてもらったが、背中を覆う温もりが無いのはとても頼りなくて、まるで無防備に放り出されたような気分になるのだ。

「切るんじゃなかった」

 売り言葉に買い言葉。
 あの自分の被験者だと言う男・・・本物のルークだと言っていたが、自分の口から「ルーク」と呼んでやるのはとても癪に障るので、当分はアッシュと呼ぶことにする。本人もその名前で良いと言っていたから文句は言わせない。
 そのアッシュとの喧嘩で、ずっと伸ばしていた緋色の髪を思い切り短く切り落とした。
 自分が決めたことで、それ自体は後悔していなかったけれど。

「・・・さむい」

 背中が感じる寒さは、現実にルークを冷やす。
 立ち止まって両腕を抱えてみても、何故か寒さは消えずにまとわり付くように感じられて。

「寒いんだ、ガイ」

 自然と、その温かな手を捜していた。
 あの冷たい7年間の軟禁生活で、ルークが「温かい」と思えたものは数少ない。
 一日のほとんどを過ごすはずの部屋は、無機質でとても冷たくて。日当たりだけは良くても、ルークの心を冷やす場所だった。
 誰も居ない部屋の中、温かいものを求めて掴んだのは、シーツに広がる自分の髪。
 まるで燃える焔のようなその色は、触れると自分の体温が伝わってきて。誰かが傍に居てくれるような温もりに、誰に教えられたわけでもないけれど、そのまま髪を握って眠る夜を果たしていくつ重ねただろう。
 時には、それはガイの手で。
 そして時には、ペールがくれた綺麗な花で。
 自分に向けられる愛情が限りなく少なかったあの屋敷で、凍えるような寒さを融かすものはたったそれだけだったのだ。

「っひゃ」

 一際冷たい風が首筋を撫でていって、比喩ではなく本当の肌寒さにルークは首をすくめた。
 当分は短くなった髪に慣れそうに無いだろうなと思いながら、通りを吹き抜ける風から身を守るようにコートの襟元をかきあわせる。そこに。

「ルーク!」

 ふわり、と周りの温度が急激な変化を遂げた気がして。
 ルークは目をぱちぱちと瞬かせながら、その視界に飛び込んできた金色を見つめた。

「ガ・・・イ?」

「やっぱり、ルークじゃないか。どうしたんだよ、こんなところで」

 言いながら、ルークが抱える買い物袋とメモの書かれた紙を見て、言われずとも理解したらしい。ガイは苦笑しながら「ご苦労様」と肩を叩いた。

「手伝うよ。その量だと一人じゃ大変だろう」

 先ほどから吹き付けていた冷たい風が無くなったことに疑問を感じて視線を向けると、ガイがルークに対して風を遮るように立っていることに気が付く。
 彼は別段意識しているわけではなく、自然と向かい合っているためにそのような位置で落ち着いたらしかった。

「ほら、さっさと買い物済ませて、帰ろうぜ?」

 差し伸べられた手を反射的に握り返す。
 そのまま引かれる様に歩き出せば、もう寒さは全く無くなっていて・・・ただ、握り合った手のひらが思いのほか熱く感じられた。





「おかえりなさい」

 扉を開ければ、当然のように出迎える言葉がかけられる。まるで其処へ帰って良いのだと言われたようにも思えて、ルークはぽかんと口を呆けさせ、ティアの顔をじっと見上げた。
 凍りついたようにぎしりと固まったルークの姿に、ティアは不思議そうに首を傾けたけれど。

「おや、遅かったじゃないですか」

「あれれー、ガイも途中で一緒になったんだ?」

「お買い物ご苦労様です」

 温かい言葉。温かい笑顔。
 世界がこんなに、優しいもので出来ているなんて。

「ルーク、丁度良いところに! 頼んでおきました調味料を下さいな」

 あの冷たい部屋に居た頃は、知りもしなかった。

「な、ナタリア・・・何を作っていたんだ?」

「まぁ、ガイ。手伝ってもらえますの? それじゃあ味見をして下さいな」

 藪にいる蛇をつついてしまったガイが、苦い顔をしかけて慌てて取り繕うように頷く。顔色が土気色なのは隠せていなかったが、ナタリアには幸い見えていないようだ。

「頑張ってねー、ガイ。みんなの運命はガイの味見にかかってるんだから」

 完全にからかうアニスの声が、和やかな雰囲気に花を咲かせていた。
 ナタリアに呼ばれて荷物を奥に運ぼうとしたガイが、つんと引っかかった何かにその足を止める。
 視線が落とされれば、それは繋いだままだった互いの手で、自分が無意識にそれをきつく握っていたのだとルークはぼんやりと認識した。
 戸惑ったままで瞳を揺らすルークに気づいたのだろうか。ガイが、握っていた手を僅かに引いて、近づいた耳に囁きかける声が響く。

「こういうときは、何て言うんだ?」

「あ」

 教えられたばかりの言葉が、頭に浮かんだ。
 それは初めて音に出すためか、少し気恥ずかしくて。血が上っていく頬はほんのりと熱い。
 けれど、すぅと一呼吸を置いて、ルークはゆっくりとそれを音に刻んだ。

「ただいま」

 それは帰ることが許された者が、口に出来る言葉なのだ。


end.

***
2006年夏コミ発行のペーパーから再録

update 2010/07/22
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