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2-10-その手で捕まえろ-後編-
「ゲームオーバー、ですね」

「・・・・・・っ」

 冷たく凍りつくような感情を消した声。
 カツリ、とブーツの踵が路地にぶつかる音が響き、それを断頭台に足をかけた罪人のような気分で見上げた。
 背筋を伝う汗は、何から来るものなのか。
 混乱する頭の中ではそれすらも認識できなくて、乾いた喉からはひび割れた吐息だけが漏れる。
 目の前に立つ男の、名前が呼べない。
 その後ろに立つ、あの赤色の、名前が呼べない。

「・・・・・・」

 口からは、何の言葉も出てこなかった。









 雑多な人々が行き来する町。
 そこは揺らめく暑さの中にも一時の休息が得られる、旅人たちの止まり木・・・そんな場所だった。
 空を仰げば容赦ない太陽に目を焼かれる。

「暑ぅ・・・」

 だから、この砂漠で空を見上げるなどという愚か者は居ない。
 乾いた唇をぺろりと舐めあげ、頭から布を被った青年はうんざりとした声を漏らした。
 彼の周りを忙しく行き来する人々は、そのフードの中に見事なまでの赤が隠れていることを知らず、よろめくように危うげな足取りを避けて立ち止まることなく通り過ぎていく。
 最低限ぶつからないようにと路地の端を歩きながら暫く行けば、僅かに開けた広場にたどり着き、やっと一息つくことができた。

「はあ」

 どさり、と大きな音をたてて座り込む。
 硬い石畳の上に勢い良く落とした腰はじんと痺れるように痛みを響かせたが、それでもひんやりと冷たい日陰が暑さで疲れた身体を癒してくれる。
 そろえた膝の上に頭を乗せてぼんやりと周囲を眺めていると、ゆらゆらと陽炎に霞む風景は変わることなくどこまでも続いていた。

「・・・あと、少し」

 目を閉じると、ほんの僅かだが力の集まりを感じられる。
 ここからそう遠く無い場所にあるそれは、おそらく世界の中でも音素が集中しやすいポイントなのだろう。そこへ向かって、彼は歩き続けていた。

「急がないと」

 あまり長く時間はかけられない。
 もちろんこのまま力が尽きてしまえば、賭けはルークの勝ちである。が、その前に彼らが追いつく可能性の方が高かった。

「もう、たぶん見つかってるだろうな」

 呟いて視線を自分の右手へと下ろす。だらりと伸びきった腕はだいぶ動きが鈍くなってきていて、ときおり陽炎に溶け込むかのように揺らめいている。
 彼自身の力もだいぶ弱まっていることが自覚できた。
 自分の居場所が知れないように通信を遮断していたが、それも既に感知されてしまっていることだろう。
 彼らがここに追いつくより前に、逃げ切らなくてはならないのだ。

「兄さん、一人旅かい?」

「・・・あ」

 ふと、日陰になっていたそこにより濃い影が落ちて、ルークが顔を上げると商人らしい男がこちらを覗き込んでいた。
 まだ年若いその男は、大きな荷物を背中に背負い・・・やはりこのオアシスで休息を求めて立ち止まったのだろう・・・石畳に座るルークの隣りに腰を下ろと、気さくに笑顔を浮かべて話しかけてくる。
 武器を携帯しているわけでも無く、このオアシスの町で1人座り込んでいる青年が珍しかったのか。それとも途方に暮れたような顔をしていたのを心配されたのか。
 その口調からは悪意のようなものは感じられなかった。

「見たところ、武器も持っていないようだけど・・・」

 ちらり、と腰に視線が伸びる。
 どうやら武器が要りようかと思われたらしい。金を持っているようにも見えないだろうが、それでも人が困っていれば自然と誰かが寄ってくるものなのだろう。旅をするもの同士、互いに助け合うというのが過酷な砂漠での鉄則だ。
 そんな心得をいまのルークが知っているわけも無かったが、それでも相手の意思は汲み取れて。それに少し困ったように顔を曇らせると、相手を見上げた。

「・・・ごめんなさい」

 それをどう受け取ったのか相手はきょとんと目を丸くして、少しすると「ああ」と納得したように頷きながら。

「ああ、もしかして文無しだったかい? 悪かったね声をかけてしまって」

 そんな風に苦笑した。
 そして背中の荷物を探ると一振りの剣を取り出して、何気ない動作でルークへと差し出す。

「これは少々飾りが取れてて、売り物にならなくなった品なんだ。気分を悪くさせてしまったお詫びに、貰ってくれないか」

「え・・・」

 それは確かに男が示した通り、柄の部分の飾りがかけている。けれど武器としては申し分ない働きをしてくれるだろうことは、抜き放たれた刀身を見れば誰でも解ることだった。簡単な修理をすればそれなりの値段はつくだろうに。
 ルークがじっと相手の顔を見上げれば、彼は笑顔のままでずい、とそれをルークの手の中に押し付けた。そして少し真剣な顔を見せると、嗜めるような声で「受け取っておきなさい」と言う。

「旅する上で最低限に必要だろう。実は、友人を砂漠で亡くしてね・・・装備も持たずにぼんやり座ってる君を見過ごせなかったんだ」

 押し付けられる形でルークがそれを受け取ると、彼はニコリと笑顔で立ち上がった。

「あ・・・あのっ」

「いいから。いつかどこかで会う事があったら、そのときは買い物でもしてくれよ」

 腰を浮かしかけた動きを制するように言葉を重ね、重そうな荷物を軽々と背負うとまた太陽が遮られ、ルークの視界は暗くなる。
 ちらちらと透ける太陽光が眩しくて、目を細めるルークが次の言葉をかけるよりも早く、男は別れの言葉と共に立ち去っていた。
 かちゃりと軽い金属音を立てるのは、手の中に残された一振りの剣。

「・・・ありがと、う」

 お礼の言葉も間に合わないまま、すでにその姿はそこに無かった。




 砂漠を越えてしばらく行くと朽ちた遺跡が砂に埋もれて僅かに顔を覗かせる。その場所はかつて創世記時代の建造物の名残と言われており、今では何の価値も無いため観光に立ち寄るものも居ない。
 ルークはその入り口を迷い無く潜ると、暗がりの中を一人黙々と進んだ。
 歩きながら、その腰には下げられた剣の重たい存在感を感じる。

(ああ・・・ごめんなさい)

 声に出せばどこまでも響くだろう。
 魔物が巣くう中で不用意な音はたてない方が得策である。
 ルークは唇を引き結び、心の中で謝罪を叫んだ。

(せっかくの好意だけど)

 腰の剣は、戦いに応じることができる武器となり彼を守ることだろう。
 旅をしていれば、魔物であり、人であり、何かに襲われる可能性はついて回る。それを考えれば、武器を携帯するのは当然だった。
 けれど、ルークは。

(俺は、もうすぐ・・・)

 消えてしまうから。
 せっかく好意で貰ったこれを、無駄にしてしまう。それがとても心苦しい。
 こんな僅かな時間の間にも人と関わらずには居られないのだ。
 先ほどの商人も、ルークに剣を渡さなければ、それを幾許かの路銀に変えるか他の誰かの役に立てるか出来たことだろう。
 そして自分を追う彼らもまた、絶望に涙を堪える表情を浮かべずに済んだはず。

「・・・ぁっ」

 ずるりと足元が砂ですべり、ルークは肩から地面へ倒れこんで声を上げた。
 手を突いてバランスをとろうとして、動かない右腕に遅れて気がついたせいだ。彼の腕は自分の体重を支えるには足らず、石畳の上に情けなく転がって。

「ってぇ・・・」

 擦れた砂が頬に染みて、顔を顰めながら膝を立てた。
 縺れた足もだんだん自由が利かなくなってきているのかも知れない。

(なんとか、あと少し・・・っ)

 目指す場所はあとすぐそこなのだ。
 かつて地上を支えていた、この場所ならば。
 残っているセフィロトの力を利用して、空へと還ることも可能なはずだった。

「俺の、勝ち・・・だな」

 誰に聞かれるわけでもないが、呟きが零れる。
 それは思いのほか落胆の色を表しており、ルークは自分の感情に戸惑い、眉を寄せた。
 勝つことを望んでいるはずなのに、同時に敗北を願う自分が居て。
 どちらも本心であるからこそ迷っている。

(空に還らなければならない)

 ローレライの願い。
 それはつまり、ルークの願いだ。
 このまま消えてしまえば良い。
 セフィロトの力で音譜帯に戻り、そしてまたたゆたうように意識は拡散し、自我は全てローレライという巨大なものへと吸収されていくことだろう。

(それで良いんだ)

 異質な存在である自分が人々の中で生きていくなどということは、彼にとって問題外だった。
 それは世界にとっても正常さを欠くことであり、そして彼らが求めたルークでも無い自分が存在することに益などは無く、悲しみばかりが増えていくのだから。

「それで、良いんだよな」

 目と目が合ったときの、涙を堪えた表情が離れない。
 たぶん、間違いなく彼らは嘆いていたのだろう。
 取り戻そうとしたものが、叶わない願いだったと悟った瞬間に。

「・・・あいつらの悲しがる顔は、見たくないんだよ」

 覚えてなどいないけれど。
 それでも、彼らを好きだという気持ちはあって。
 好きだという感情は嘘でも幻でもなく、音素に刻まれた温かい記録なのだ。

「っだから、あと・・・少しだけ」

 彼の目の前に広がる、巨大な譜業装置。
 それを見上げてルークは眩しそうに手を翳し、息をついた。
 倒れそうになる足を支えながら、あと僅かな距離を彼は踏み出そうとして。




 けれど。




「ゲームオーバー、ですね」

「・・・・・・っ」

 冷たく凍りつくような感情を消した声。
 振り向くと入り口を背にして、青い服を纏った男が静かに立っていた。
 まったく気配を感じていなかったことに驚き、それだけ自分に余裕が無かったのだとルークは遅れて気づく。
 カツリ、とブーツの踵が路地にぶつかる音が響いて、それを断頭台に足をかけた罪人のような気分で見上げた。

「さあ、どうしますか」

 後ろに続く影が、男との距離が縮まったことで確認できるようになり。そこにあの赤い色が翻って、さらに息を詰める。
 あれだけ望んできたその存在がすぐ近くにいるのだ。
 手を伸ばせばたぶん届くであろう、その場所に。

「馬鹿げた賭けはもう終わりだ」

 その声を聞いた瞬間、全てが震えた。
 ルークはあとずさりも出来ずにその場に立ち尽くし、歩み寄る彼の姿をただ目に映して震える肩を抱きしめる。
 それは喜びであったのかも知れないが、彼には強い衝撃としか感じられなくて。

「もう逃げるな」

「・・・っ」

 背筋を伝う汗は、何から来るものなのか。
 混乱する頭の中ではそれすらも認識できなくて、乾いた喉からはひび割れた吐息だけが漏れる。

「逃げる必要は、無いんだ」

「・・・・・・!」

 聖なる焔の、と叫びそうになって、口を押さえた。
 間違った名前など何の意味も持たないからだ。

「ルーク」

 青い服の男が、通る声でその名を呼んで。
 けれどルークは頷くことも否定することも出来ずに目を逸らした。
 ルークであって、ルークではない。
 その葛藤はどこまでも答えが出ない問いを繰り返している。

「・・・・・・ぁ」

 目の前に立つ男の、名前が呼べない。
 その後ろに立つ、あの赤色の、名前が呼べない。
 ・・・口からは、何の言葉も出てこなかった。

「ルーク」

 もう一度、男の声にびくりと肩が揺れる。
 その続きはおそらく、全てを決定する威力を持つ言葉だ。

「賭けなどして、貴方は最初からこうなることを、どこかで望んでいたのでしょう?」

 相変わらず、嘘が下手ですねぇ。
 そんな呟きが空間に大きく響き、何度も共鳴して。
 深い色の譜眼が、怯えるような碧玉を捉えた。




 最初から、彼の敗北は決まっていたのだ。









***
アシュルクになりたい!と叫びながら、どうしてかルークは見知らぬ商人と仲よさげです。うわああ(笑)どこまでカプ色薄いお話なんでしょう;;

←back next→強く、強く、強く。

update 2009/04/09
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