スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


update --/--/--
backトップ > スポンサー広告 > 2-07-第七音素の名を持つもの *
2-07-第七音素の名を持つもの
 天に一番近いとされる場所。
 雲に掠れる程の高さを誇るその建物は、現在の技術では再現が不可能と言われている。その階段を一段ずつ昇り行くと、かつてここを訪れたときの思いが蘇ってくるようだった。

(因縁深い場所だな)

 アッシュは気付けば回想に囚われそうになる思いを振り切り、足を踏み出す。
 一歩ずつ進む段は運命の時を数えるように、少しずつだが確実に頂上への距離を縮めていた。

「アッシュ、どうしてレムの塔ですの?」

 螺旋状に伸びる階段を昇りながら、黙々と足を動かし続けるだけの静かな緊張感が耐えられなくなったのだろうか、ナタリアが隣に並び声をかけてくる。もしかしたら彼女なりにアッシュの気を解そうと気にかけてくれたのかも知れない。
 アッシュは速度を緩めずに階段を進みながら、隣で自分を見つめ答えを待っている気配を感じて少し思案すると。

「ローレライはあいつが解放して、音譜帯に加わった。だから俺たちの手の届かない遥か上空にあることになる」

 振り向きもせず、前を見据えたまま説明をした。
 背後を歩いていたジェイドは「ですから」と続ける。

「我々に天まで届く手段があれば良かったんですけどねぇ。ロニール山脈や自然の地形に比べても、このレムの塔は一番高い建物ですから」

「それに第七音素への干渉がしやすい場所だというのも、ここを選んだ理由だ」

 最後にアッシュが締めくくると、ナタリアも納得したような顔になり、黙り込む。
 以前この場所で世界中の障気を中和したときのことを思い出したのだろう。
 それは大きな悲しみの記憶でもあったが、当時の大規模な術発動の影響によりレムの塔には未だに第七音素のFOFが形成されていた。

「大佐、あの・・・ルークがローレライと同化しているとして、どのようにして呼び出すのですか?」

 今度はティアから質問の声があがる。みんな心の中では不安が大きいのだろう。
 3年、とは言葉にすると簡単だが、重みのある長さだ。
 これまで彼らが望みを捨てずにルークの帰還を願ってきたこと。
 そしてアッシュの言葉により訪れた大きな変動。
 これが失敗したら、もう後が無いような気がして自然と顔色は暗くなる。
 その雰囲気を感じたジェイドは、彼らしくも無く「大丈夫ですよ」と根拠も定かでない励ましを口にした。

「・・・絶対に成功させましょう」

 それは裏付けされた自信ではなかったけれど。
 ティアはこくりと頷くと、力をこめてまた一つ段を踏みしめた。
 その彼らの目の前に、ようやく階段の終わり・・・エレベーターの昇降口が見えてくる。地上からの出入り口はあれ以来封鎖されていたため、この上の昇降口までは歩いて来なければならなかったのだ。
 幸いこちらの昇降機は問題も無く稼動している様子で、ガイが操作をすると容易く扉が開く。やがて鈍い音をたててそれが動き出すと、ジェイドは全員を近くに呼び集めた。

「それでは詳しい話をしましょうか。アッシュ、お願いします」

「・・・ちっ、てめぇが説明しないのかよ」

 説明役を促されて、アッシュは一瞬嫌そうな顔をしたものの、ジェイドがそれ以上は何も言わないことを確認してため息をつく。
 ガイがこっそり笑ったのは、旅をしていた頃は彼がいつもジェイドに押し付けられていたことだったからだ。

「話したとおり、あいつはローレライと同化して音譜帯に居る。その音素の集合体を呼び出して、地上に引き止めるつもりだ」

「そんなことが出来るのか・・・?」

 驚いたようにガイが呟くと、説明していたアッシュでは無く視線を受け止めたジェイドが苦笑して、はっきりと頷いた。

「まったく、アッシュではやはり説明が不十分ですね」

 笑いながら肩をすくめ補足する。

「もともと我々人間も全ての物質と同じく、元素と音素で構成されているのは知っていますね?」

「ああ、知っているさ」

 万物は音素と元素で構成されている、というのは基本的な知識である。
 旅に出た頃のルークはそういった一般教養すら抜け落ちていたため、ひとつひとつの説明が必要だったが、ガイたちのように普通の生活を送っている者は誰でも知っていることだ。
 理解していることを彼が示すと、ジェイドは促されるままに言葉を続けた。

「ルーク・・・つまり、今はローレライですね。あれは第七音素の集合体です。形の無いものを実体として固定することは普通に考えて難しい」

「ああ・・・音素なんて捕まえておけるものじやないものな」
 
 形の無い「音素」を捕らえることなどできるのだろうか。
 ガイには想像もつかなかった。しかしそれが可能でなければ、そもそもこんな場所まで訪れたりはしないとも考える。おそらく、ジェイドとアッシュは何らかの手段があるからこそ、このレムの塔まで来たはずなのだ。
 すると意外にも、ジェイドは「簡単ですよ」とガイの疑問に答えた。

「そこでフォミクリーを応用します。あれは与えられた情報の通りに音素と元素を配列させる技術です。それを応用すれば、取り込んだ第七音素を基礎にして元素を結合させることも可能でしょう」

「それは・・・」

「ええ、そうです」

 気がついたらしいガイににっこりと微笑むと、ジェイドは周囲の者たちにも理解できるように言い換える。

「つまり、第七音素の集合体である「ルーク」を呼び出すと同時に、フォミクリーと同じ現象を引き起こさせます」

 そうすれば、元素の結合によって「ルーク」を構成するローレライ・・・第七音素を、肉体の檻の中に閉じ込めることになるのだ。

「なるほど、な」

「通常、音素が乖離すれば結合する力を失い、耐え切れなく肉体は崩壊する。言い換えれば元素を結合させるのに音素は必要不可欠ということです。・・・それを逆手に取れば、音素は元素の結合のために肉体に縛り付けられることになる」

 それは一見すれば確かに可能であるようにも聞こえる。
 しかし、その非現実的な作戦の成功率がそれほど高いともガイは思えなかった。じっと探るように見つめれば、困ったように表情を崩し、ジェイドもそれを肯定する。

「・・・確かに途方も無い話ですけどね」

 それでも、この方法に賭けるしか無いのだ。
 けれど気になることはまだあり、この際だから・・・とガイは重ねて尋ねる。

「しかし音素を取り込んだとして、それが果たしてルークと同じという保障はどこにある?」

 個を決定する要素とは、どこにあるのだろうか、と。
 外見が同じなら?
 だがルークはアッシュと同じ姿形をもちながら、彼とはまったく違う個であった。
 それはかつて共に旅をしてきた彼らならば十分過ぎるほどに解っていることで、対するジェイドの回答も、それを納得した上でのものだった。

「ローレライ・・・呼び出す第七音素の集合体がルークであるならば、あるいは可能性があるかと」

 ・・・何もかもが曖昧。
 そんな不安定な手段であることは最初から承知していたが、実際に聞けばますますそれが痛感される。
 静かに言われたことを自分の中で咀嚼して、ガイは苦笑いを浮かべながら皮肉げにぼやいた。

「だんながそんな曖昧な賭けに出るなんてな」

「私にも余裕は無いんですよ。これは本当に賭けとなりますね、アッシュ」

 ガイの皮肉を軽く受け流して、ジェイドが促すように視線を戻す。
 その視線の先に立つ赤い色彩を持つ青年は、返事の変わりに意思の宿った強い目の光でそれに答えた。
 それを見て、ジェイドはその場の全員の了承ととる。

「さあ、行きましょう皆さん。・・・どうせ始めるなら早い方が良い」

 彼が告げると同時に。
 ごぉん、という響きと共に、彼らの前にはレムの塔の最上階が開かれた。









 かりかりと引きずるような音をたてて、石灰の棒が複雑な模様を描いていく。
 その様子を何人かは傍観し、そして何人かは受けた指示に従い手伝って。

「・・・皮肉なものだ」

 誰にも聞きとめられない小さな声で、ジェイドは呟いていた。
 この譜陣はジェイドが昨夜のうちに考案しておいたものだ。一朝一夕の知識で引ける様な構造ではなかったが、幸い彼がこの3年間で進めてきたレプリカやフォミクリー技術の研究が、ここで役に立っていた。
 二度と手を染めないだろうと思い硬く封印していた研究を、再び紐解くきっかけとなったのはルークの存在で。そのルークのために、この技術をまた使おうとしている。

「世の中、何が起こるかわからないということですね」

 過去から現在に到るまで、彼の理論は打ち負かされたことが無かった。
 出した答えは絶対。
 けれど、ルークならば・・・あの、奇跡の様な第七音素の申し子ならば、その理論すら当てはめずにこの赤い譜眼を驚きに染め上げるようなことをしてくれるかも知れない。
 そんな期待がいつもどこかにあった。

「帰ってこなければなりません、貴方は」

 なぜならば約束を交わしたから。
 約束は果たすべきものだということを、あの無知な子供に教えてやらなければならない。
 そして大分らしくない考えばかりをするようになった自分に、ジェイドは失笑した。きっとこれはあの子供の影響を長く受けすぎたせいだ、と思いながら。
 やがて屋上全体を包む譜陣が完成すると、ジェイドはその中央へと歩み出た。

「ティア、中央で大譜歌を歌って下さい」

「大譜歌を・・・ですか?」

 塔の中央に立ったジェイドは離れて立っていたティアに声をかける。名を呼ばれたティアは、突然の言葉に目を丸くして驚いた。
 すると今度はアッシュが同じように中央へと進み出て、ティアを呼んだ。

「ローレライとの契約の歌だろうが。あれを呼び出すには、それが一番有効だ」

「けど・・・ルークを呼ぶには・・・」

 ティアは戸惑いを隠せずに視線を彷徨わせる。
 ローレライと同化していると説明の上では理解したのの、ローレライというのは巨大な第七音素の塊である。そんな中にあるルークの音素とはほんの欠片ほどにも満たないことだろう。
 果たしてそれを呼び出して、選び出すことが出来るのか・・・と考えてしまうのだ。

「大丈夫だ」

 けれどアッシュは不安など微塵も見せない様子で。
 天を仰ぐその瞳は、まるで音譜帯の詳細までも見通せるかのように、真っ直ぐどこかへ向けられていた。

「俺があいつを見つけられる。お前が歌えば、あいつに届く」

「・・・!」

 はっと顔を上げれば、滅多に見ることの無い彼の笑顔が、そこにあった。
 まるでルークが微笑んでいるような。
 ・・・そんな錯覚を覚える柔らかな微笑みに、彼女の呼吸は一瞬止まる。

「ティア」

 呼ばれる名前は、その声は確かにアッシュのものなのに。
 何故か懐かしい彼が呼びかけている気がして、涙が零れそうだった。
 けれどまだ泣いてはいられないと、目頭に力を込めて熱いものをやり過ごす。まだ泣けない。泣くのは彼が戻ってきてからだ。
 ティアは心を落ち着けるように、深呼吸する。
 彼女の動きに反応して、アッシュも目を閉じ集中を始め、そしてジェイドもまた術の発動に備えて身構えた。
 やがて、ティアは静かに目を伏せてから、静かに息を吸い込み・・・。

「・・・―――」

 そっと吐息が流れるような旋律が、静寂に包まれた塔へと響き渡った。




 美しい旋律が、何にも邪魔されることなく流れていく。
 アッシュはそれを聞きながら、全身のフォンスロットへと呼びかけた。
 考えなくても体が覚えている。そして記憶は寸分違わず、捕まえた気配を逃しはしない。

(見つけた)

 細くて遠く伸びる糸を手繰り寄せるように、自分から繋がる彼へと声を送るために。
 気配は掠れるほどに僅かなものだったが、アッシュにとってはそれだけで十分だった。

(このまま・・・引き寄せるっ)

 思考せず、自然とアッシュの腕は前方より引き寄せられ、胸の前で何かを掴むように構えを取る。今はもう失われたローレライの鍵・・・けれどそれが彼の手の中にあった時の感覚を思い出して、アッシュは手の中の「形」を握り締めた。
 そしてゆっくりと両手を、地面へと向けて振り下ろす。
 見守っていた者たちの目には、本物の鍵が存在しているかのように見える動きで。

(聞こえるか・・・おい! 答えろ・・・!)

 全ての流れを感じるままにアッシュは呼びかけ、その存在を掴み取る。
 彼らを包み込むように広がった金色の光は、次第にその量を増して、塔のフロア全体を覆うほどのものへと変わってきていた。

(答えろ・・・っ!)

 戻って来い。
 ここに。
 この声の元に。

 それは果たして、彼の声の元へという意味だったのか。それとも、響き渡る歌声を示していたのか。意識の外で叫んでいた言葉は、アッシュにも理解する余裕など無かった。
 ただ確実なのは、この場に居たものたち全員の思いが、同じであったこと。
 唯一、彼の帰還を望むことだけ。

(・・・・・・っ!)

 ひときわ強く彼が呼んだ瞬間。
 あたりを音も無く閃光が包み込んだ。

「きゃ・・・!」

 思わず声を上げたナタリアが自分の目を両手で覆う。その強い輝きに目が眩み、誰もが目を庇うように閉じるしかなかった
 しかしそれでもティアの大譜歌は揺らぐことなく旋律を紡ぎ、アッシュも大地を踏みしめたまま微動だせず立っている。

「どうなったんだ・・・?」

 ようやく目が開けられるようになり、ガイがそろりと目を開いてみると、ティアの歌はいつの間にか止まっていた。
 先までの激しい光は、嘘のように柔らかなものへと変わっている。

「ティア・・・アッシュ・・・?」

 続けて目を開いたナタリアも、気がついたように2人の名前を呼び、彼らに歩み寄ろうとして・・・。
 そこで、ぴたり、とその動きは静止した。




 光が降り注ぐ場所に、ひらりと白い布地を翻し。
 金色の輝きを纏わり付かせ降り立つ。

「・・・ルー、ク・・・?」

 静止したかのような時間の中で、とん、と軽い音を立てて足がつく。
 誰かの声が、静かにその名前を呼んだ。









***
ようやく出てきました、主人公。こんなに長く主役が不在なんて、とんでもない連載ですみません(笑) 次回からはちゃんと出番があります。・・・たぶん。
理論とか、それっぽく聞こえるように作りましたけど、相変わらず全部捏造なので誤解の無いようお願いしますね;;

←back next→懐かしいその声で

update 2009/04/09
backトップ > テイルズオブジアビス > ED後捏造 > 2-07-第七音素の名を持つもの *

since 2006 Sonatine-ソナチネ- Powered by FC2 Blog
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。