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2-06-置き忘れたガラス玉-後編-
「思うとおりになど、生きてやるものか」

 意識が浮上した瞬間に、彼が感じたのはそれだった。
 混ざり合っていく意識の中で、その混ざり合うものが自分以外の何者であるのかを悟ったとき、あまりの結論に絶句していた。
 死んだはずの人間がまた思考を続けられること自体が異常なのだと、頭のどこかで警鐘が鳴っている。
 入り込んでくる記憶は刻々と彼に「何がおこっているのか」を伝えてきて、理解するごとに吐き気がするほどの後悔がこみ上げた。

 消えるのは、自分だと思っていたのだ。
 自分が全て奪われたのだと、そんな馬鹿なことを思っていた。
 その気持ちを隠さずに衝動のままに、相手にぶつけていた。

 本当に消えるのは、奪いつくされるのは、その相手の方であるとも気付かずに。

「屑がっ・・・いや、屑は俺の方、か?」

 キラキラと輝く金色の光が見える。
 その中をゆらゆらと漂い、触れるその光は羊水に包まれるように温かい。まとわりつくそれらは、触れるとしみこむように同化して、彼の体を構成する糧となっていった。
 ぼんやりとしていた感覚は次第に鮮明になり、記憶の混濁は逆に進んでいく。
 もう一人の、聖なる焔の名を受けて誕生した人物の。
 人としては余りに短すぎるであろう一生の記憶。

(・・・望んでもいいだろうか)

「・・・っくそ!」

 耳に残る、聞いたことも無い言葉を、振り払うために頭を振って。
 そんなこと知りたくも無かったと心の中で吐き捨てる。
 ずっと憎むだけならば良かったのだ。
 最後まで憎み通せなければ、いままでを全て後悔へと塗り替えることとなるから。

(この想いが、残れば良い)

「うるさい、黙れ・・・っ」

 知っていたのだ。もうずいぶん前から。
 ルークと呼ばれるあのレプリカが、どれだけ優しい心を持っていたかを。
 罪を犯したけれど、それを受け止めて前に進める強さがあるのだと。
 知っていたのだ。気付かないふりをしていただけで。

「黙れ・・・!」

 仮に「自分のレプリカである」という嫌悪を除けば、どちらかと言えば好感を持てる程の人柄であり・・・いや、控えめな言い方はよそう。彼のように強くあれれば、と尊敬できる部分も多々あった。
 憎しみは、自分が陥れられたことに対する怒りで。
 自分に向けるべきのその憎悪を、全て彼へと向けた。
 彼を自分だと、レプリカだとしてしか見ていなかったから。
 それは自分に対する嫌悪を相手にぶつけるだけの「逆恨み」だったのだ。

「くそ・・・」

 ずっと気持ちを誤魔化していた。
 出会うたびに憎しみで武装し、罵声で牽制して。
 ずっと相手は手を差し伸べてくれていたのに、それに気づきながらもそれを拒んでいた。
 気付かないふりで、相手をただ傷つけてきた。




 白状すれば、それは憎しみだけで終わらない感情であった。










「好き勝手に言いたいことだけ言い残して・・・消えやがって」

 受け止めた記憶はあまりに優しくて、温かくて。
 認めれば後悔で押しつぶされてしまいそうで、逃げ出してしまった。

 自分は全て奪われたことにしなければならない。

 そうしないと、彼を憎み続けることが出来なくなるから。
 脅迫されるように自分の中の考えにとりつかれ、彼は記憶を誤魔化した。
 生き続けるのは「アッシュの全てを奪ったレプリカのルークである」という嘘を真実とすり替えて。

「どうしようもない屑は俺の方だ。けど、あいつは本当の馬鹿だ」

 生きることを諦めてしまうこと。それは生命を持つ存在にとって致命的な欠陥であると言える。
 本能で人は「生きたい」と思い続けなれればならないのだ。それを誰かに譲るなどということは本来ありえない。だからこそ、人は自分を残すために戦いの歴史を繰り返している。

「好き放題してくれた礼は、きっちりさせてもらうからな」

 そして突きつけてやるのだ。
 こんなものはいらない、と。
 奪い勝ち取ったのではなく、温情で貰った居場所など。

「アッシュ、持って来ましたよ。フォミクリーの資料はほとんど処分されて居ますが、これは私が個人的に書き留めていたものです」

「十分だ」

 扉を開けて戻ってきたジェイドが、持ってきたファイルを机に置きながら話しかける。それに手を伸ばして、ぱらりと最初のページを捲り確認するとアッシュは満足して頷いた。
 ジェイドは無言で頷いてそのまま自分の執務机に腰を下ろす。
 その動きを目で追って、手にしたファイルをパラパラ捲りながらアッシュは「やっぱりな」と小さく呟いた。

「やっぱり、俺の思ったとおりで行けるかも知れねぇ」

「もったいぶらずに話せよ! 連れ戻すって・・・どういうことだ!?」

 焦れたようにガイが叫ぶ。
 周りで見守る他の者たちも気になるのは同じ気持ちらしく、落ち着かずにソワソワした雰囲気をかもし出していた。

「もったいぶってるわけじゃねえ。少し確認したいことがあったから、それまで確信が持てなかった」

 ぱたり、とファイルを閉じる音と共に、アッシュは立ち上がるとカツリとブーツのかかとを鳴らす。息すら殺して彼の言葉を待つその場は、防音処理の譜陣など無くても物音一つたたない静けさに包まれていた。

「奴は消えて無い。だから、呼び戻すことができるはずだ」

「なっ・・・!」

「それは、本当なのか!?」

「もう少し順を追って話して下さい、アッシュ」

 突然のアッシュの言葉に驚いて、立ち上がり声を上げる者たちも居る中で、ジェイドは冷静に話を運ぼうとする。
 「貴方は昔から説明が下手ですね」と呆れたため息を零しているが、実際その発言に誰よりも興味を惹かれているのはジェイド本人なのだろう。普段よりも少々饒舌となっている彼の動揺を見抜けるのは、この国の最高権力者ただ1人だが。

「3年前、大爆発のことを俺はずっと誤解していた。完全同位体が出来たことによって、被験者は音素乖離を起こして、衰弱するように死に至ると・・・」

「確かに初期段階の緩やかな乖離現象を見れば、そう思っても仕方有りませんね」

 アッシュの言葉に、ジェイドが頷いて肯定する。
 その誤解のためアッシュは自分の死期を察して、当時はあれほどまでに荒々しい行動を繰り返していたのだ。

「ああ。けど、それは間違いだった。乖離現象はただの準備段階に過ぎなかったんだな。その後レプリカと被験者は大爆発を起こし、レプリカを取り込んで被験者が残される」

「そんな、ルークは知っていたんですの・・・?」

 潤んだ瞳で問いかけるナタリアに、コクリと一度頷くと「知っていた」とアッシュは答える。
 残された記憶の中に、確かにその情報は残されていた。
 だからこそ、アッシュはこの可能性に気づくことが出来たのだから。

「あいつ・・・本当に俺たちに何も言わないで、いつも普通のふりを続けてたんだな」

 呟きながらガイもやりきれない思いをぶつける場所も見つからず、膝の上に乗せられた手はずっと握り合わせたまま震えている。
 全員がどこかでルークの体の変調に気づいていた。
 逃れられない運命なのだろうと、何となくわかっていたから。
 そしてルークが最後まで隠そうというのなら、せめてそれを支えてやろうと思って、気づかない演技を続けていた。
 けれどその胸の奥に閉じ込められていた暗がりは、想像できる範囲を越えて、こんなにも暗く重い闇となっていたと知る。

「本人しか抱える苦しみは測れないと、よく彼は言ってましたわ・・・私が、辛い思いを抱えているだろうと」

 偽りの王女であると突然いままで立っていた地面が突き崩されて。
 自分が自分ではなかったと示されるのがどれ程恐ろしいことかを痛感し、あの時は何を信じれば良いのかすらわからなくなっていた。
 かつてルークも同じように、信じてきた自分自身を偽ものだと言われたのに。
 ナタリアには、一度も「同じ苦しみ」とは言わず、ただ励ましの言葉だけをくれた。

「私にも・・・イオン様のこと、私が泣いてたらルークは優しく頭を撫でてくれて・・・」

 取り返しのつかない過ちを犯したのだと、罪の意識に沈みそうだったアニスを彼はそっと優しく抱きしめて「アニスのせいじゃない」と言葉をくれた。

「誰かにそういって欲しかったの。私が悪いんだけど・・・でも、誰かに許してもらわないと、どうしようもなかった・・・!」

 膨れ上がった涙は抑えきれずに零れて。そっとティアが抱きしめると、思い出して感情が高ぶったのか、アニスは声を殺して静かに泣き始める。何年経っても彼女にとっては忘れられない過去なのだろう。

「けど私は・・・アクゼリュスのとき、ルークが悪いんだってしか、言えなかったの・・・っ」

 ちくり、と消えない傷が痛む。
 それは全員が抱える罪だった。
 彼だけが悪いとは言えない状況で、そして誰よりも彼は被害者でもあったのに。
 アクゼリュスの惨劇を見せられて正常な判断力がなくなっていたとはいえ、何も知らなかった彼に冷たい言葉で突き放すしか出来なかった。
 罪に目を向けさせるにしても、他に言いようがあったはずで。
 だけど、それは最悪の言葉と手段で、彼への罵りとなり。
 幼い彼の心を、深く傷つけたことだろう。

「・・・どうやら、我々はまだ彼に言わなければならないことが、たくさんあるようですね」

 その言葉には全員が頷いた。
 語りつくせないほどのものが、彼らの中には残されている。

「だから取り戻すんだよ。あのお人よしの大馬鹿野郎をな」

 アッシュが力強く声を張り上げ、バン、と手にした書類を机に広げた。

「大爆発を起こすと、レプリカは記憶だけを残してあとは肉体からはじき出される・・・つまり乖離する」

「乖離すれば、後は通常の音素として大気に拡散して、再構築は不可能となります」

「いや、そうじゃねぇんだ。確かに乖離したら拡散して終わりなのが普通だが・・・俺たちは、違う」

「・・・貴方達だけは、違う?」

 特例があれば、と願ったことはあったけれど。
 それでも奇跡などというのは簡単に起きることでは無いし、人為的に起こせることでもないと、ジェイドは考えている。
 ならばアッシュの自信がどこから来るのだろうか。

「完全同位体が大爆発を起こすならば、俺たちにはもう一つ・・・その存在があるんだよ」

「!・・・ローレライ、か」

 告げられた名前に、ジェイドは一瞬目を瞠り、そして納得がいったように呟いた。
 その可能性は彼も考えてはいたのだ。完全同位体が3つ存在することによって、大爆発に何らかの影響が出たりはしないのかと。
 しかし音譜帯に昇ったローレライを観測しても、それは単なる第七音素の集合体でしかなく、求めていた結果は得られなかった。

「僅かだが、あいつの気配は消えちゃいねぇ。何とか俺が辿れる」

 ルークはローレライと同化している。
 じっと目を閉じたままでそう言い切ったアッシュは、その向こうに存在を感じているのだろうか。
 次に顔を上げた彼は、はっきりとその場所を口にしていた。

「レムの塔へ行く」

 この世界で、一番彼に近い場所へ。









***
みんなでルークを褒め称えてよ!なお話。
大爆発とか同位体、フォミクリーに関してはだいぶ脚色してあります。ルークが助かるようにと都合をあわせてみました。

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update 2009/04/09
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