スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


update --/--/--
backトップ > スポンサー広告 > 2-05-置き忘れたガラス玉-前編- *
2-05-置き忘れたガラス玉-前編-
 何かを堪えているような顔だった。
 寂しさだろうか、辛さだろうか。
 自分にはわからない、自分とは何か別の痛みを抱えて、彼はそれでもいつも笑っていたと思う。




 彼がどうしてそんな顔をしていたのか、その理由を今は知っている。
 記憶は全てここにあった。
 どんなことを思い、何を聞いて、そして感じていたか。
 けれどそれは決して、彼の悲しみを「理解した」わけではなかった。

(同じものを見たとして、他人が同じように感じるわけじゃねぇ)

 ジェイドの言ったことは正しかった。
 そこに「もうひとり」がいないことに涙を流し叫んだのは、確かにアッシュの心がそうさせたもので。
 思い出せば思い出すほど、内にあるルークの記憶は、アッシュにとって「他人」の記憶でしかなく。ルークと彼の違いを証明した。
 だからこそ、記憶ではルークの思っていたことを知っていても、それは他人・・・アッシュの視点で感じたものとしてしか受け取れない。

(理解できない部分も、たくさんある)

 例えば一つの出来事があったとして。同じ場面にたったならば、ルークとアッシュはそれぞれ違う考えや行動を起こすことだろう。記憶を持っていたからといって、ルーク自身になり代われるものではないのだ。
 記憶の中のルークを忠実に再現してみせたところで、それは過去の経験を基にした「ルーク」の複製に過ぎず、これからの「ルーク」は何処にもいない。
 偽りでしかない仮面はすぐに剥げるもの。
 だからこそ、ガイもナタリアも違和感に気づき、そして疑いを持っていた。
 被験者である彼が、今度は逆にレプリカであるルークを演じていたとは、全く皮肉なことである。

「・・・少し落ち着きまして?」

 カタリと音を立てて、傍らのテーブルに携帯用らしい小さめのカップが置かれた。漂う湯気の香りから、それは淹れたばかりのコーヒーであることが伺える。
 覗きこむように傾けられた首筋にさらりと柔らかな金髪が滑っていく。その癖のついた金色を眺めながら、アッシュは無言でそのコーヒーを受け取った。
 先ほどは痴態を晒してしまったことを思い出し、恥ずかしさに眉を寄せて。けれどいつだったかルークが自分に「そのうち皺が取れなくなるぞ」と悪態をついた記憶が甦ると、次には苦い顔をした。
 それ以上の言葉を続けようとしないナタリアをちらりと見上げると、彼女もまた複雑な感情を持て余しているのか、視線を泳がせるように天井や足元を見ていて、アッシュを真っ直ぐに見つめようとはしない。
 他の仲間たちも、アッシュからは一定の距離をとり、思い思いに口を閉ざしていた。

(無理も無いだろうな)

 帰ってきたアッシュ。
 それは喜ばしいことであり、けれど同時にルークがいないという絶望をも彼等に与えたことになる。
 おそらく通夜のように沈み込んでいるだろう面々のことを思い、アッシュは「ちっ」と小さく舌打ちした。

「もうじきグランコクマに到着します」

 そんな重苦しい空気の中にいながら、いつもの口調を少しも崩さずジェイドが告げたその言葉に、アッシュは窓の外へと視線を流す。
 勢い良くすれ違っていく風景と白と青が、この機体の持てる速度を物語っていて、その水平線には陸地の影が見え始めている。そこが、目的地のグランコクマだ。

「貴方からの話は私の執務室でゆっくりお聞きしますよ」

 見え始めた陸地はみるみるうちに大きくなり、その上に立つ荘厳な建物が姿を現した。
 アッシュも良く見知っている。水の都とも呼ばれる、海上に築かれたマルクトの首都。

「あれあれ、港は反対側じゃないですか、大佐?」

 接岸する港が遠ざかっていくのを見て、アニスが不思議そうにジェイドに問いかけると、彼は赤い瞳を細くして笑みを浮かべて「これで良いのですよ」と答えを返した。

「我々が向かうのはマルクトの軍港です。一般の港に入るには、アルビオールは目立ちすぎますからね」

「なるほどな」

 ガイが納得したように頷く。
 軍籍ではないアルビオールがマルクトの軍港に入れるように、彼はピオニーへと連絡をとり手配を進めていたのだろう。まったく根回しの良い男だ、とアッシュは窓から目を外さないままで彼への評価を下していた。
 味方にすれば非常に頼りになる軍師かも知れないが、敵に回したら限りなく厄介だとも考えながら。

「すでに許可は取ってあります。面倒な報告や手続きも不要ですので、時間もかけず私の執務室へ行けますよ」

 逆に言えば、報告や手続きをせず秘密裏に執務室へ入るということ。
 おそらく軍港で待機している兵たちも、皇帝が直々に配置した者たちのみなのだろうと予測できた。

「それで構いませんか?」

 構わないも何も、最初からこちらに選択させるつもりも無いくせに。
 ルークが覚えている記憶の中でも、ジェイドが最後に投げかける確認はyesしか選択肢のないもので。自分の用意したシナリオを歩かせるための心構えの確認でしか無いのだ。
 変わらないそれに、自分が経験したことでも無いのにアッシュは苦笑して、了解の意を彼へと伝えた。









 グランコクマの軍港は地下に建造されている。
 厳重な警備に囲まれて、城の中へと続いているらしい水路を通り抜けると、暫らくして大きく開けた空間に無数の軍艦が停泊する港に出た。
 ジェイドの言っていた通り、認証も必要なく検問は素通りできて、先頭を行く彼に付き従いアッシュたちは入り組んだ通路を上へと向かい登っていく。
 ようやく地上の建造物らしい装飾のついた階層に出ると、ジェイドはその中のひとつの扉を開き、促すように一同を招きいれた。

「さあ皆さん、ああ、少し狭いですが我慢して下さいね」

 ジェイド一人が使用するその執務室は、決して会議をするような広さを持っているわけではなく、全員が中に納まると少々窮屈を感じずにはいられない。

「大声で言えないようなことを話すにはここが一番なものですから」

 続けられたジェイドの言葉を察するに、この部屋には何らかの仕掛けが施されているらしい。そういえば視界の端にいくつかの目立たない譜陣が巧妙に隠されている。それを見て、アッシュは納得した。
 外部に音を漏らさないような結界がここには張られているのだろう。

「おや、気づきましたか」

 アッシュの視線の動きを追って、ジェイドが楽しそうに目を細める。
 知識が無いものが見てもただの装飾にしか見えないそれを、少し確認しただけで気づいたことに感心したのだ。
 アッシュ自身いくつかの譜術を行使するため、それらに関しての知識はある程度以上には持っている。

「さて。もうお互いに隠し事を無しで話しましょう」

 最初にそう提示して、ジェイドは探るような視線をアッシュへと向けた。

「もちろん最初からそのつもりだ」

 言われたアッシュも怖じずに応える。
 ここまで彼らについてきたのは、別に無理やり連れられてきたからというわけではない。アッシュは目的があって彼らに同行したのだ。
 必要な力と情報がそこにあることを、知っていたから。

「まずはやはり確認からですが・・・貴方はアッシュと呼ばれていた被験者のルーク、で間違いはありませんね?」

「・・・ああ」

 頷くと同時に、方々から息を呑む音が聞こえる。
 納得していてもこうして直接言葉としてルークの存在を否定されたのだ。アッシュには悪いが、感情ばかりは自由に操りきれるものではない。

「レプリカの記憶が混入して、俺の意識が混濁していた」

「なるほど・・・だから貴方は自分をルークだと思っていた、と」

 ふむ、と唇を食む仕草を見せて呟くジェイドにあわせて、アッシュも頷く。

「・・・それだけじゃないがな」

 まだ喉に詰まったような言い方しかできないのは、アッシュ自身も自覚したばかりの感情を持余しているからだった。
 今でもまだルークへ対する気持ちを量りかねている部分があったけれど。

「とにかく、俺からあんたに聞きたいことはフォミクリーに関する知識だ」

 一方的な勝ち逃げをされた形で引き下がるわけにはいかない。
 それだけははっきりとしていた。

「フォミクリー、ですか?」

「そうだ」

 そんなことを聞いてどうするつもりなのかと、ジェイドは顔をしかめる。生物フォミクリーを禁忌として以来、彼はその一線から退いて久しいのだ。
 確かに3年前からはいくつかの研究資料を紐解いて、同位体やレプリカたちの構造研究・医療技術の確立などを手がけてはいたのだが。
 しかしアッシュは「それが必要なんだ」と言い放つと、邪魔そうな前髪をかきあげてギラギラと光る意志の宿った瞳を彼らに向けた。
 そこには、夢にまどろんでいた姿も、そしてルークの名を叫び涙を流した姿も重ならない。

「協力してもらうぞ。あの馬鹿を連れ戻すために」

「・・・!」

「どういうことです」

 腰掛けていたアニスが驚きに悲鳴を上げかけ、そしてジェイドが慎重に言葉を選ぶ。
 彼らも全員、この3年の間ただ待つだけで何もしていなかったわけでは無いのだ。
 ルークが消えて。
 レプリカ・ホドは崩壊し、その残骸から彼の痕跡は欠片も見つかりはしなかった。
 どんなに探しても。また世界中の情報を探り続けても。
 再会を約束して、叶わないそれと知りつつも、誰もが彼の帰還を信じ続けて。

「言葉の通りだ」

 短く告げられるアッシュの言葉は、相変わらず主語が欠けていて説明が足りない。そのことに眉を寄せてため息をつくと、ジェイドは一度ぐるりと室内の全員の顔を確認した。
 真っ直ぐに、アッシュに集中している4対の瞳。
 どんな小さな可能性でも追い続けた彼らの、真剣な姿勢だった。
 3年経った今も。これだけ、世界中のあらゆる手段を模索しても手がかりすら掴めなかったというのに。
 それでも誰1人として、諦めようとするものは居ないのだ。
 ジェイドは自分も含めて相当な馬鹿の集まりだな、と思いながら、深いため息をついてアッシュを振り返った。

「・・・わかりました。詳しく聞きましょうか」

 それは3年の季節を経て飛び込んだ、希望の光かも知れなかったから。









***
また前後編に分かれました。やっと本筋が始動です。
ルークを助けるための物語なんですよ。
そしてもちろん主役はルーク(とアッシュ)なんですけど・・・えと、ルークがぜんぜん出てこなくて焦っております; もうちょっと先になると出てきますので!

←back next→置き忘れたガラス玉-後編-

update 2009/04/09
backトップ > テイルズオブジアビス > ED後捏造 > 2-05-置き忘れたガラス玉-前編- *

since 2006 Sonatine-ソナチネ- Powered by FC2 Blog
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。