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2-03-終わるとき、始まるとき。
 翌朝は日が昇るのと同時に、アニスの甲高い声で全員は起床させられた。

「ほらほらー、みんな! いつまでも寝てないで、大佐が呼んでますよー!」

 自分では動かずに、アニスへ指示して起こしに向かわせるあたりが彼らしいとも言える。
 結局夕べは宿に戻らず朝帰りとなったらしいジェイドは、きちりとした身支度を済ませて既に食堂で全員を待ちかまえていた。

「皆さんおはようございます、いやいや、夕べは良く眠れたようですねー」

 にこにこと、張り付いたような笑みがなんともいやらしい。
 集まった何人かの顔には明らかに寝不足の色が出ているというのに、そんなことをしれと言えてしまうあたりが、彼が彼である所以である。

「さて。さっそくですけど、グランコクマに向かおうと思います」

「良いのか?」

 その言葉を受けて、ルークが真っ先に声を上げた。
 彼が生きていることを公にするのは混乱のもとだと言ったのは、他でもないジェイドである。なのに、突然今日になってグランコクマに行くなどというのは・・・。
 そんな疑問を当然と受け止めて、ジェイドは頷くとその考えを説明してくれた。

「昨日は、そう言ったのですよ。夕べ陛下に宛てて書簡を送りました。秘密裏に受理され、我々が目立たぬように迎え入れられる手はずが整っているはずです」

「ほぇー、大佐、いつの間に!」

 アニスが関心したような声を上げた。
 それを聞いていた者たちも同感だと心の中で頷く。
 再会を喜ぶばかりだった面々の中、1人常に冷静だったのもジェイドだと思い出しながら。

「それから、グランコクマから使者が派遣されます。もう既にバチカルへ向けて出発しているはずですよ。貴方のことを伝えるための、ね」

 正式な手筈を経て、それは直接バチカルのインゴベルトに届けられることだろう。そしてバチカルは万全の準備を整え、英雄の帰還を待てばいい。

「ちゃんと手順を整えないと、悪戯に国を混乱させるだけですから」

 まずは第一にと、ジェイドはピオニーへ連絡をとったのだ。

「ならば途中でチーグルの森に寄れないかしら? ミュウが・・・あの子もずっとルークのことを待ち続けていた仲間だもの」

「そっか、チーグルの森はグランコクマに飛んでく途中だったね」

 ティアの提案にアニスが頷く。
 グランコクマに向かうとなれば、出来れば先に彼に会ってあげたい、と思ったのは別に彼女たちだけではなかった。この3年の間、ルークの帰還を同じく信じ続けていたのはあの幼いチーグル族の彼とて同じことだったからだ。
 今回の渓谷への訪問にも出来れば同行したいと言っていたミュウだったが・・・。

「この季節のチーグル族たちは繁殖のために忙しいですからね」

「ええっ!?」

「おや、ルークは知らなかったのですか?」

 知らなかったも何も。
 仰天するような事実を聞かされたような気がして、ルークは目を剥いて目の前のジェイドを始め仲間たちをぐるりと見回す。しかし驚いているのは彼1人で、全員は落ち着いた様子でお互いの顔を合わせて微笑みあっていた。

「チーグルのような小動物は生活のサイクルが短いですからね。彼ももう立派な成人となったというわけですよ」

 いやあ、先を越されてしまいましたね、ルーク。
 そんな嬉しそうなジェイドの言葉にも反発する余裕は無く、ぽかんと口を開けて呆けてしまっている。

「・・・あらら、大佐ぁ、刺激が強かったみたいですよー」

「それはそれは、大変失礼しました」

 くすくすと笑い声が飛び交っていく。
 この3年間、真の意味で誰もが笑顔と言うものを無くしてしまっていた中で、夕べの一瞬から世界は一変したかのように光を取り戻したようだ。
 このたった一人の人物の帰還によって。

 けれど。

「さあ、ミュウに会っていくのならば余計に急がなくてはなりませんね」

 号令をかけるようにまずはジェイドが立ち上がると、自然にそれぞれも席を立ち宿を出る仕度へと向かう。昔のような長旅ではないため、大した手荷物も無いいまの彼らならば準備という程の手間もかからないのだが、それでも手際よくチェックアウトまでを進めていく手順はごく旅なれた感触を匂わせていた。

「・・・ジェイド」

 各々の部屋へと散っていった姿を、自らは何をするわけでもなくニコニコと・・・彼の知り合いが言うところの食えない微笑みを浮かべていたジェイドに、そっと声をかけたのは、荷造りに戻ったはずのガイだった。

「どうしましたか、ガイ?」

 暗にルークのお守りはもうやめたのかという、からかいを含んだ響きには眉を寄せて渋い顔をつくる。そんなにお守りといわれる程に、過保護だった覚えは無い・・・と無自覚な考えを心に留めながら。
 軽く首を横に振り、ガイは手短に済ませたいのだと続けると。

「何かに気づきましたか」

 見返していたジェイドの瞳の表情が僅かに変わる。
 ・・・それは質問というよりは、確認の様な言葉だった。
 何が、とは明確に出さなくても、お互いそれが何を指しているのかは明白なこと。

「俺は誰よりもアイツと長く傍にいたからな」

 感じる違和感は、ジェイドの反応で確信に変わっていた。

「・・・滑稽なこと、と私は思いますよ」

 ふと変化した声色に傍らを見ると、珍しく表情が無い本来の素顔を晒している彼がいた。ことさらこの件に関してだけは、誰もが平静では居られないのだ、正直なところ。

「でも、俺はもう少し信じて見ていようと思った」

「相変わらず寛大ですね」

 答えたガイに対しては、意外だったと驚きが浮かび出る。いつものポーカーフェイスは現在開店休業の状態らしい。これを見たならば、どこかの王様などは面白いとばかりに弱点を容赦なくついて来たことだろう。

「俺にとっては、どちらも大切な幼馴染だから、な」

 何人もが感じ始めている違和感。
 けれどそれに「ルーク」本人は全く気づいていない。
 気がついたとき、はじめはわざと避けているのだと思った。
 けれど話しているうちにそれは違うのだとわかってきて。
 彼は無意識に、アッシュの話題を避けているのだと。

「いまの彼にとってはあれが真実なのでしょうからね」

 最初からそれに気づいていたジェイドもまた、溜息のように声を潜める。
 言葉でそれを指摘するのは簡単なことだった。
 それをしなかったのは、彼自身がそれに自覚を持ち、疑問を持たなければ意味が無かったからだ。
 相変わらず手間をかけさせる子ですね、とぼやけば、苦笑するガイの気配が伝わってくる。

「ジェイドのだんなもまるで子持ちになったみたいだな」

「止めてくださいよ。冗談ではありません」

 あんな大きな子供、時々面倒を見るだけでも十分です。
 心底嫌だという面持ちで肩をすくめたその仕草は、冗談にぼかしたようであったけれど、彼なりの照れ隠しなのだということが数年の付き合いでわかり始めていたガイは。

「そんなこと言うなって。俺なんてルークの乳母やって結構長いんだから」

 その会話を打ち切るために、自らも冗談を交えて捨て身の相槌を打って返した。









 鬱蒼とした緑が続く。
 朝靄がまだ消えないうちに出発したお陰か、日が高くなる前に彼らは懐かしい森の入り口へとたどり着いていた。

「うわ、懐かしいな。あの頃と全然変わって無い」

「そんな数年で森みたいな自然は変わったりしないわ」

 素直に同じ風景を喜んでいるルークの隣で、冷静なティアの説明が挟まれる。実は情緒という言葉を理解していないのは、実年齢がまだ幼い子供であるルークではなくティアの方なのだというのが解る一面だ。

「わかってるよ、そんなこと」

 水を差されたルークは口を尖らせながらティアへ言い返して、それに対して「本当かしら」と疑問を寄せるティア。そこには時間の経過など感じさせず、この変わらない森の風景と相まって、まるで過去の一場面が蘇ったかのような錯覚を起こさせる。

「ほらルーク。ティア・・・きみも、今日中にグランコクマに入らないとならないんだから、あまりゆっくりしてられないぞ」

 その光景を壊すのは何故か罪悪のような気がしたが、口を挟まなければいつまでも長引きそうだったのでガイが仲裁に入った。

「ルークぅー、急がないと、アニスちゃんが先に行っちゃうわよー」

 いつの間にか周囲からだいぶ遅れて道端に止まっていたらしい、ルークとティアは、遠くから木霊するアニスの掛け声に顔を赤らめて慌てて駆けていく。

「・・・本当に、気づかないのかよ。ルーク」

 残された木陰でガイが呟いた言葉は、既に遠く離れてしまった彼の耳には届かなくて。不安な気持ちも全て掻き消えた声のように気のせいであってくれればいいのに、と思えて背にした木の幹を紛らわすように殴りつける。
 真実叶って欲しいと感じる願いこそ、叶わないものなのだと彼は知っていたけれど。
 せめて今だけでもと願いながら、ガイはゆっくりと彼らの後を追って歩き出した。

「あ、ミュウ!」

 かさりと草木を揺らして現れた青い影が、馴染みのあるチーグルの彼だとすぐにわかったアニスは大きな声でその名を呼んだ。
 呼び止められた小さな体がすぐに反応して、ぴたりと立ち止まり大きな紫色の瞳が彼らを映すと嬉しそうに見開かれた。

「みなさん、お久しぶりですのー!」

 昔と全く変わっていない。
 記憶の中のそのままであるミュウが、そこに居た。
 アニスの後ろから遅れる形になって追いついたルークはまだミュウにその存在を気づかれていないようだったけれど、懐かしい姿を見た瞬間にもう嬉しさがこみ上げてくる。

「ミュウ、今日はすごいお客さんをつれて来たんだよぉ」

「みゅ? 何ですの?」

 こくり、と首をかしげる姿はティアいわくとても可愛らしい姿で。
 その疑問に勿体つけるような「じゃじゃーん!」という効果音を口にしながら、背後に近づいたルークを入れ替わるように前へと押し出した。

「帰ってきたんだよ、ルークが!」

 きらり、と光を煌かせて回る瞳が、まるでガラス玉のような色だとルークは思った。
 きょとんと丸く開かれた瞳の中に彼の姿が同じく映る。
 二対の瞳に映し出されて、まるでそこに2人の自分が立っているかのような風景に、どきりと鼓動が波打った。

 そして。

「この人は、ちがいますの」

 真実が、露呈する。









 金色の光が彼の最後の記憶だった。
 次に目を開けたその時には、何事も無かったように立ち尽くす姿に、ひどく驚いた。

(俺は、どうして、ここにいる?)

 あの時、金色の光に包まれて消えていく運命だったはず。
 あの時、何本もの剣に貫かれて息を引き取ったはず。

(どうして)

 その記憶はどちらも彼のものであり、そしてどちらも真実であった。
 混ざり合う記憶の流れの中、彼は自分にとっての本当を見失って。

(俺は・・・)

 選び取った、見つけた結論は。

(俺は、ルーク・・・だ)

 唯一変動することのない、それ。









「そんな・・・馬鹿なこと」

 よろめくように足を絡ませ、どんと背中を木の幹に預ける形となって。
 呆然と呟いたのは、自分への疑惑。

「ミュウ、一体どういうこと・・・?」

「ね、ガイ・・・ルークがどうしたの? ミュウはどうして、あんなこと」

 ティアもアニスも、驚きに両手で口元を抑えその場に縫いとめられたように立ちすくんでいた。
 ガイは目を伏せて、時間を止めることも戻すことも出来ないのだという現実だけを認識する。そしてナタリアが「やっぱり」と小さく呟いたことに驚きを露にした。

「ここまでですね」

 ジェイドの声が、再び場を沈めるように高く耳を打つ。
 その赤い譜眼は何もかもを見通す色を持っていて。その前にはどのような誤魔化しも存在できないのだ、と「彼」の記憶は語っていた。




 まどろむように夢を見ていた。
 幸せな未来。みんなが微笑む風景。
 そして共にある、赤い髪を揺らすあいつの姿。

 けれど夢は夢として、目覚めと共に砕け散るだけ。




「思い出しなさい。いい加減に夢から覚めるときですよ・・・本物の、ルーク・フォン・ファブレ」




 ジェイドの言葉で、魔法が解けるように彼の表情が変化する。

 まどろむみながら見ていた幸せな光景。
 みんなと共に居る、赤毛の青年・・・「ルーク」。

 彼が夢見た風景は叶うことのない儚い幻影にすぎなかったのだ。









***
ここでやっと導入部分が終わりです。(前置き長すぎ)ようやくルークを書けますよー。(ここまでの彼は「彼」だったので;)

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update 2009/04/09
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